はじめに

米国金利の先安観がドルの重石

他方、目先、ドルが一本調子で上値を試すイメージもあまりわきません。確かに中東リスクの後退や、米中貿易協議の「第一段階の合意」は市場心理によい影響を与えているものの、それだけではドルの上昇に限界があるでしょう。

現状、ドルの重石となっているのは米国の金利先安観です。昨年12月の米連邦公開市場委員会(FOMC)で示された各政策メンバーの金利見通しによれば、2020年に利下げを見込む向きは皆無でした。これに対し、米FF金利先物を見ると、市場は年内に1回程度の利下げを織り込んでおり、金融当局とは見通しに差異があります。

もちろん、円安ドル高の進行に米金利の上昇が不可欠とはいえません。とはいえ、両者の足並みがそろわないことに対しては、腰の座りの悪さも感じられます。

なお、金利市場が米国の追加利下げを織り込んでいることについては、景気減速見通しが根底にあると想像されます。たとえば、労働市場の逼迫が言われて久しいだけに、雇用者数の伸びが趨勢的に鈍化していくことは避けられないでしょう。今年、米国経済が曲がり角を迎える可能性は低くないのかもしれません。

反面、大統領選の年に、再選を目指す現職大統領が景気減速を容認することはまず考えられません。それゆえ、金融当局に対する利下げ圧力を強めることもあるでしょう。

結局、当面のドル円相場はどう動くのか

ただ、大統領選の年だけに、米連邦準備制度理事会(FRB)がトランプ氏の要求に応えにくいのも確かです。政治的な中立姿勢を崩すわけにはいかず、追加利下げにはかなり明確な根拠が必要でしょう。いずれは米利下げ観測の後退がさらなるドル高を支援する場面があってもおかしくありませんが、そのタイミングはまだ先ではないでしょうか。

結局、当面のドル円相場は神経質な展開が予想されますが、軽視できないのが日本勢の実需資金の動向です。節目の1ドル110円を突破したことで、「ノックアウト(自動消滅)条項」付きのクーポンスワップが一定程度契約終了となった可能性が考えられます。クーポンスワップについて詳細は省きますが、為替予約と同様の効果が得られる取引です。

たとえば、輸入企業であれば、一定の期間、期日ごとにコンスタントに外貨を調達できる取引ですが、為替レートがあらかじめ決められた水準に達した場合、契約が消滅するのが「ノックアウト条項」です。仮に想定していた水準で外貨調達ができなくなれば、当然ながら輸入企業はその分の対応を迫られます。

日本勢による実需のドル買いが思いのほか根強い可能性があり、リスクはやや円安方向に傾斜しているとみられます。

<文:投資情報部 シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>

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