「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。デジタル技術を活用して、事業を立ち上げたり、事業を変革することを指しています。

ただ、多くの日本企業は既存業務の生産性向上を目的に取り組んでいるように思われます。たとえば、官民を挙げて取り組んでいる「働き方改革」において、さまざまなクラウド技術を活用して、残業時間を削減することなどが、これに当たります。

しかし、CDO Club Japan事務局でマネージャーを務めるSansanの柿崎充・デジタル戦略統括室長は、「DXの本質は、働き方改革とは別のところにある」と指摘します。CDO Club Japanは、日本の企業や行政組織においてDXを推進する立場にある役職者などが情報交換を行うためのコミュニティです。

今回は、2020年1月16日に開催されたイベント「Biz Forward 2020」内での柿崎氏による「デジタル時代の価値創造」の講演内容から抜粋して、日本が取り組むべきDXの本質をご紹介します。

プロダクト企業とプラットフォーム企業

プロダクト企業とは、従来型の企業です。モノとカネを持っていて、それを扱うのが得意です。プラットフォーム企業は、データとAI(人工知能)を扱うのが得意です。

sansan

今まで、このモノ・カネに関するデータを扱う部分が未開領域といわれていました。いわゆるIoTのエコシステムですが、サイバースペースの中にデータを集め込んでいるプラットフォーム企業が進出しています。

見方を変えると、倉庫を持ったり、工場を持ったりするのが得意なのがプロダクト企業。プラットフォーム企業は、お客さんに近いところで、データを集めるのが得意です。これがIoT(モノのインターネット)の部分で、サイバースペースとしてプラットフォーム企業がどんどん侵食しているのではないかと思います。

つまり、データの集め方です。アップルウォッチによって、ヘルスケア業界がかなり打撃を受けています。衛星のデータも使っていろいろ行っているため、このモノ・カネの部分のデータもかなり集まってきています。

アマゾンが店舗をやったり、倉庫をやったり、最近では自動車もやっています。そして、金融やAWS(アマゾンウェブサービス)のサーバーを持ったり、最近は電力にも出てきています。ただ、その事業そのものよりも、その事業の裏でデータを取ることがポイントなのです。

知らない間に自動運転のデータが集められ、現在、そのデータを圧倒的に持っているのは、グーグルのWaymoという子会社です。気づかない間に、グーグルが圧倒的なデータを持つ時代になっていました。

今後、何か新しいことをやろうとしたとき、人が入力したデータはやめたほうがいいと思います。今は、データを何からでも取れます。アマゾンはカメラにシフトしていて、カメラで人を特定したり、車を識別したりしています。

衛星のデータも、今は当たり前のように使われています。自動車会社であるテスラは、衛星のデータで、ライバル会社から車の出荷場を見られています。勘や経験に頼る時代ではないのです。日本ではあまり衛星のデータを使う発想はありませんが、海外では衛星データは安いので、ライバル会社を見たりしています。

プラットフォーム企業がIoTのデバイスでデータを集めるのも、データを集めるのが目的ではなく、そのデータを使い、自分たちがプラットフォームになり、プロダクト企業に何か売ることを考えているのだと思います。

重要なのは描き出して気づくこと

まず、自分たちが今いる業界について、一度、書き出してみることが大事だと思います。IoT化ができていないものがあれば、それが当たり前になるように、やっていく必要があるのではないかと思います。

ボッシュの方に「GAFA(グーグル、アマゾン、フェイスブック、アップル)は競合か」と聞くと、「電気自動車というエコシステムが育つことが第一で、自分たちはまずそこからやらないといけない。競合ではなく、すべてはパートナーだ」といいます。グーグルの自動運転技術に、ボッシュの部品が使われればいい。もちろん、競合にもなります。

ECU(電子制御ユニット)の話をしましたが、テスラも製造しています。ボッシュとテスラはECUで競合している面はありますが、そのECUのレイヤーでお互いがお客様でもあります。絵に描くのは単純ですが、現実には細かいレイヤーがある点に注意してください。

この中では、ボッシュからテスラに部品を供給したり、あるところでは囲ったり、この部分の戦いは結構激しかったりします。私が話すとすごく単純に聞こえるかもしれませんが、現実は複雑です。いずれにしても、業界構造の絵を描いてみて、自分たちで気づきながら対応していく必要があるのではないかと思います。