「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉を耳にしたことはあるでしょうか。デジタル技術を活用して、事業を立ち上げたり、事業を変革することを指しています。

ただ、多くの日本企業は既存業務の生産性向上を目的に取り組んでいるように思われます。たとえば、官民を挙げて取り組んでいる「働き方改革」において、さまざまなクラウド技術を活用して、残業時間を削減することなどが、これに当たります。

しかし、CDO Club Japan事務局でマネージャーを務めるSansanの柿崎充・デジタル戦略統括室長は、「DXの本質は、働き方改革とは別のところにある」と指摘します。CDO Club Japanは、日本の企業や行政組織においてDXを推進する立場にある役職者などが情報交換を行うためのコミュニティです。

今回は、2020年1月16日に開催されたイベント「Biz Forward 2020」内での柿崎氏による「デジタル時代の価値創造」の講演内容から抜粋して、日本が取り組むべきDXの本質をご紹介します。

アマゾンが考えるこれからのデータ戦略

私はアメリカで、Amazon Goと日系コンビニエンスストアの両方に行ってきました。このAmazon Goは、日本の報道では「無人レジ」と言われています。しかし、アメリカでは「カメラがデータを集める。そこがポイントだ」と報道されています。

日系コンビニエンスストアは、POS(販売時点情報管理)データを蓄積しているので、実際の購買結果しかわかりません。店内でどういう動きをしたかまでわかりません。性別や年齢は手で入力しています。店員によっては、お客さん全員を30代で入力してしまうこともあり得るでしょう。

一方、Amazon Goでは、人の表情まですべて撮っています。嫌な顔をして買ったとか、棚に戻したとか、その時の表情まで全部撮っているのです。この違いがデータの違いとして表れてくるのです。

実際、私がAmazon Goに行ってみると、当日は無人ではなく、店員がいました。また、土曜日・日曜日は休みで、24時間ではないのです。したがって、日系コンビニエンスストアのほうが生産性は圧倒的に高いと言えます。

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アマゾンは、Amazon Goという店舗をやりたいわけではないのです。店舗でデータを取る仕組みを展開したいのです。

コンビニでなくても、地方でデジタル化していない店舗などにタダで配ってしまう。一方で、食品メーカーなどと価格の調整を行うかもしれない。さらに、インターネットモールやショッピングモールなどにデータを売ることをしてくるかもしれません。そういったことを考えているのが、データ時代になります。

さきほど「価格の調整」に触れましたが、アマゾンのジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)がこう言っています。「顧客にできる限り、低価格を提供することに注力する」。社長自ら、低価格と言っているのです。日本の場合、社長判断で感覚的に価格を決めることがありますが、アマゾンの場合、データで価格を決めることが染みついているのです。

デジタル技術による生活レベルの変化

今、デジタル技術によって、コストが下がっていると言われています。今まで本で調べていたものが、ネット上で全部調べられます。ただ、生産性が向上しても、給料は上がりません。そういう時代です。アメリカも生産性は上がっているけれど、給料は伸びていないのです。時間単価が上がっていません。これは日本も同じで、正社員の給料は伸びていません。

ただ、皆さんの生活レベルはどうですか。給料が上がっていなくても、生活レベルは上がっているはずです。調査によると、実際に生活レベルが上がっている人が増えています。インターネットの無料検索や天気予報も無料です。そういった無料のサービスによって、生活レベルが向上したと感じる人が増えています。

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さきほど、検索サービスはタダで、広告で儲けていますと話しましたが、実は、プラットフォーム型とは、消費者目線でいうと、お客さまはお得に感じています。実際の価格が200円だと思ったけれど、実は100円で売られていれば、100円の消費者余剰(消費者が支払っても良いと考える金額から、実際の価格を差し引いた金額)になります。無料であれば、消費者余剰は高いのです。

消費者余剰を与えて、広告などで生産者余剰(生産者が売っても良いと考える金額から、実際の価格を差し引いた金額)を取る。そこで儲けるのです。プラットフォーム戦略では、消費者余剰を上げるサービスを持ちつつ、違うサービスで消費者余剰を増やすことが可能になります。

では、何から始めるべきなのでしょうか。まず、自社の業界はどうか。今、自分がいる業界がそれに乗っていけるのか。その変化が重要になります。そこに気づくか、気づかないかで、差が出てきます。これに最初に気づいた人は、インテルでCEOを務めたアンディ・グローブ氏です。

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実は、プラットフォーム戦略は「インテルモデル」と言われています。何に気づいたかというと、垂直統合型と水平分業型です。業界構造が変わってきたのです。

たとえばIBM等がCPU(中央処理装置)をつくるところから販売まで一気通貫でやっていたのを、CPUをつくる会社、OS(オペレーティングシステム)をつくる会社など、分業してきていることに気づいたのです。まずそれに気づくことによって、プラットフォーム戦略を重要視しました。

気づくか、気づかないか。今、自社の業界がどうなっているか、それを理解していただく必要があると思います。

他社と共存するエコシステム

最近、オープンイノベーションという言葉を聞きますが、これをやらなくてはいけないことは当たり前です。インテルが頑張っても、ハードウエアやOSが高品質でなければ変わりません。皆さんも、一気通貫してすばらしいものだから買うはずです。メーカーの場合、自社だけが頑張ってすごくいい製品をつくっても、小売店も頑張らなければ売れません。

オープンイノベーションは、一致団結してイノベーションを起こさないとダメなことは当たり前で、エコシステムもアマゾンやグーグルは1社でプラットフォームをつくる資金力があります。銀行も一気通貫してできますが、そうではない会社は他社とともに作り上げることが大事だと思います。

競争ではなく共創です。他社とどう一緒に組んでいくのか。すべては、エコシステムに変わっています。ボッシュの場合、全ての企業は「パートナー」と言います。アマゾンやグーグルが自動車業界に進出しても、敵ではなく、パートナーだと言っています。

インテルはスマホに乗り遅れて業績が悪化しました。パソコン業界というエコシステムが衰退すると、そのエコシステムに属する企業はみんな衰退します。自社だけが頑張るのではなく、パソコン業界を成長させたり、パソコンの業界がダメならスマホに移るなど、エコシステム全体として伸ばさないといけない時代です。