はじめに

2019年6月に金融庁が発表した『高齢社会における資産形成・管理』という報告書の中で、夫が65歳以上、妻が60歳以上の無職世帯が年金に頼って暮らす場合、老後に約2,000万円が不足するという試算が示されました。

定年後は年金だけで生活できると考えていた人は相当数いたらしく、国民的議論にまで発展。人生100年時代を迎える今、個人投資家はどのように資産運用をしていけばいいのでしょうか。経済アナリストの森永康平氏が、FP不動産グループ代表で、自身がファイナンシャルプランナーでもある岡本裕史氏に話を聞きました。


投資は長期的な観点から無理のない範囲で

森永氏:早速ですが、日本でも徐々に資産運用の必要性を感じる方が増えてきたように感じます。やはり今後は各自が資産運用をしていかないといけないのでしょうか。

岡本氏:金融庁の2,000万円問題が1つのきっかけになったのは間違いないです。ただ、2,000万円という金額だけがクローズアップされて、話題が先行したという印象です。

確かに、今後は社会保障費が上がったり、年金給付額が下がったりなど、逆風が吹くことには間違いありませんが、十分に蓄えがある人もいれば、老後資産が2,000万円以上不足する人もいます。ですので、各自が自分自身に当てはめて、どうしていかないといけないかを考えていかないといけません。

たとえば、子どもが1人いる世帯でも、30歳の夫婦で小さい子どもが1人いる世帯と、50歳の夫婦で子どもはすでに独立してしまった世帯とでは、必要になる金額は当然変わります。

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森永氏:FPとして働いていて、今の個人投資家についてどのような印象をお持ちですか。

岡本氏:そもそも、自分がいくら必要なのか、家族がどれぐらい必要なのか、ということを把握していない人が多いです。FPという立場で見ると、世の中に数多くある金融商品から個人投資家が適切な商品を選ぶのは難しい。だからこそ、何がやりたいのか、目標は何なのか、という点を一緒に明確にしてあげないといけません。

日本人があまり投資に馴染みがないという点に私は違和感があって、ほとんどの日本人は銀行預金や保険という形で、資産形成はしています。しかし、利回りの観点から考えると、当然株式や債券、投資信託などにも投資をしていかないといけない。その段階に踏み込めている人は少ないのだと思います。

森永氏:銀行の利子は限りなくゼロに近いですし、今後は口座維持手数料がかかってくるかもしれない。そう考えると、とりあえず銀行預金でいいや、という姿勢も今後は厳しくなってきますね。ただ、一方でやはり株や投資信託は元本が毀損するという怖さがあるのも事実ですよね。

岡本氏:それはその通りだと思います。ただ、私の場合、お客様と話す際に、株や投資信託など商品の話から入ることはないです。最初に考えるのは、アセットアロケーション(資産配分)とどれだけ投資に回せるのかという計算を一緒にしていきます。

資産運用に使えるお金がどれくらいあって、どれぐらいの時間軸で考えるのかを話し合いながら、投資先の地域や投資資産などを分散して投資して、効率的に資産を増やす方法を考えていきます。

私は森永さんと同じく子どもが3人いるのですが、ある一定期間に学費のピークが集中するので、手元にある余裕資金を運用に回しています。それでも全額は投資に回していません。

FPとして、投資は長期の視点でやらないといけませんから、あくまで無理のない範囲でやっていける金額と方法を考えています。期間も10年、20年、30年というスパンで考えます。

「太陽光発電システム投資」は怪しくない?

森永氏:銀行預金ではダメで、株や債券、または投資信託で資産運用をしましょう、と言われても、日本株はアベノミクスの影響で右肩上がり、米国株も史上最高値を更新している中で、そろそろ過熱感もあります。

一方で債券は利回りも低い。うまくアセットアロケーションを組んだとしても、20年、30年と長期に安定したリターンが取れるか不安です。他に何か新しい投資先はないですか。

岡本氏:株や債券以外にも、もちろん保険の積み立てなどで資産運用することは可能です。しかし、20年積み立てても、積み立てた投資資金の1%ぐらいしかリターンがないケースもあります。それでは積立投資の意味がない。

そこで、保険業界では外貨保険や変額保険など、お客様にリスクをとってもらって、その分、期待リターンを上げてもらっている現状です。

とはいえ、やはり保険だけでは厳しいと思います。最近はiDeCo(個人型確定拠出年金)や企業型の確定拠出年金もありますから、うまく制度を活用して、節税しつつ投資から発生した利益が非課税になるという法制度を活用したほうがいいのは、言うまでもありません。

FPとしては、ある程度の確実性があり、かつ長期で投資することが前提になっている商品をおすすめしやすいので、最近は「太陽光発電システム」投資も選択肢の1つとして紹介しています。

森永氏:太陽光発電システムですか?失礼ですが、なんだか怪しいイメージがあります。資産運用の選択肢として大丈夫なのでしょうか。

岡本氏:確かに、太陽光発電に関する企業がお金だけを集めて、実際には投資をしなかったり、そのまま倒産したりした事例もありますので、詐欺のような印象を持っている人はいるかもしれません。

しかし、投資に係るリスクは太陽光発電だけに生じるものではないと思います。株式投資だって、投資先が倒産してしまえば、投資したお金はなくなります。

また、太陽光発電の場合は、メガソーラーの開発で自然が破壊されているなどの報道が悪いイメージを助長しているかもしれません。逆に、太陽光発電システムに実際に投資をして、損をしたという話はそこまで聞かないかと思います。