はじめに

老後2,000万円問題を契機に、将来のための資産形成を考える人が増えています。しかし、働き盛りは出費盛り、貯蓄がなかなか進まなかったり、投資をしても思うような成果が出ずに迷う人もいるでしょう。

そこで、「日本一富裕層を知る税理士」として知られる税理士法人ネイチャー国際資産税の芦田敏之・代表税理士に、富裕層の資産管理の秘訣と、お金持ちでなくてもできる資産形成のポイントを教わりました。


お金を増やすだけでなく、減らさないことも重要

――芦田さんは“個人の富裕層を多く顧客に持つ税理士”として知られています。

芦田さん: 富裕層は持っているお金が多いだけでなく、出ていくお金も多いので、豊富な知識を持つ専門家によるコンサルティングには高いニーズがあります。

なにしろ所得税と住民税は最大で55%も課税され、残った額にも相続税の最高税率である55%を課されてしまうと、収入の20%しか残らない計算になります。残った20%を増やそうとするより、事前の節税を組み合わせることで、はるかに効率的に資産を守り、増やせるのです。

一般的な収入の人はここまで税率が高くないので、富裕層ほど節税効果は高くはありませんが、考え方は同じです。資産形成と合わせて、減らさないための対策を取ることが重要になります。

ネイチャー

芦田敏之:税理士法人ネイチャー国際資産税 代表税理士。大手税理士法人に勤務後、2012年に税理士法人ネイチャー国際資産税を設立。国内および国際資産税の専門ファームとして、富裕層の資産対策を中心に数多くのインターナショナル案件への対応実績を持つ。歴史あるプライベートバンクや国内大手金融機関からの信頼も厚く、資産規模100憶を超えるクライアントの案件を数多く抱えてきた異彩を放つ経歴から、「日本一富裕層を知る税理士」として注目を集める。近年は、働きやすい職場環境づくりの取り組みがメディアに取り上げられるようになり、日本経済新聞や週刊東洋経済、Forbes JAPANへの紙面掲載の他、幻冬舎ゴールドオンラインやテレビ・ラジオ番組等にも多数出演。

――個人のお客様はどんな悩みを抱えていますか。

大きく分けて4つあります。第一に「収益・資産向上」、要するに今ある資産をうまく運用して増やしたいというニーズです。

第二は「費用や債務の削減」で、出ていくお金やローンなどの負債を減らしていくために、最も効果が高いのは節税です。保険の見直しや住宅ローンの借り換えなども、ここに含まれます。

第三に、「リスク削減」です。高齢の方であれば相続で遺族がもめるリスクを回避したい希望が強いですし、会社を経営しているならトラブルなく承継したいニーズがあります。

働き盛りの現役世代であれば、自分に万が一があった際に、残された家族のためにどう準備するかといった対策が必要で、資産運用をしている人であれば、リスクを取り過ぎていないかということも、これにあたります。

第四のニーズは、主に富裕層になりますが、車やヨット、あるいは子どもを海外で教育したいといった、家族を含めたプライベートな事柄や「楽しみ」に関する情報提供です。

――この中で、一般的な収入の層の人たちに効果が高いのはどれでしょうか。

「収益・資産向上」と「リスク削減」が、特に効きますね。当法人には普通の会社員や自営業の方も多く相談に訪れますが、多くの方が効率的な資産運用をして、今あるお金や収入を増やしたいと考えています。

富裕層と一般の人では、できることがまったく違うのではないか、と感じるかもしれませんが、そんなことはありません。不動産投資であれば、富裕層ならマンションを一棟まるごと買うところを、普通の会社員ならワンルームから始めるというように、サイズ感が変わるだけです。

収益・資産向上については、1%でローンを組んで5%の利回りの商品に投資をすれば、両者の差となる4%が利益になります。当然、規模は大きいほうが投資効率は良いですが、一般的な収入の人にとっても十分勝ち筋です。

また、個人で投資するよりも資産管理会社を設立するほうが、利益に対する税を軽減したり、経費に計上しやすくなるので、手元に残るお金が増えるケースが多くあります。資産管理会社も今は安く設立できるので、普通の会社員でも十分視野に入ります。

リスク削減も同様で、資産の多寡はあまり関係ありません。余裕資金をすべて株に投じている人の場合、リーマンショック級の金融危機が来ると、資産が半分になる可能性があります。この事態が耐えられないと思うなら、リスクの取り過ぎと判断できるため、一部を別の資産に置き換えることを検討したいところです。

不動産であれば、一時的に価値が下がっても追加の資金を求められたり、ローンの返済額が上がることや、賃料が急激に下がることはないので、株よりは心穏やかに保有を続けられます。

投資も節税も、その人によって可能な選択肢は異なる

――投資というと、株や投資信託をイメージしてしまいますが、ほかにも選択肢があるのですね。

もちろん、株や投資信託も有力な選択肢の1つですが、富裕層はもっとバラエティ豊かな投資で資産を増やしています。

例を挙げれば、風力発電、コインランドリー、足場(仮設資材)リース、オペレーティングリース、有価証券も株に限らず、仕組み債やデュアルカレンシー債などさまざまな商品があります。不動産にしても、定番である都心物件だけでなく、地方や海外の物件にもそれぞれ異なる特徴があります。

なじみのない対象は不安に感じるでしょうが、どの投資にも良し悪しはなく、それぞれにメリットとデメリット、向き・不向きがあるだけです。その人の目的や属性に合っているか、そして可能か不可能かという基準で判断すべきです。

――「可能か不可能か」というのはどういうことですか。

単純に、できるかできないかという話です。「富裕層じゃないけど投資や節税はできますか」という疑問はもっともで、確かにその人の資産や収入の額、働き方、年齢などによって、できる投資とできない投資があります。まとまった自己資金が必要なものもあれば、ゼロでも可能なものもあります。

しかし、個人のお客様の多くは、今の自分にどんなことができるかを把握していません。誰でも収益は高めたいし、費用は削減したいですよね。そのために私たちにできることは、お客様のニーズを深くヒアリングし、お客様が採り得るすべての選択肢を提示することです。

私たちはその人が可能なあらゆるオプションを提示し、それぞれのリスクとリターン、メリットとデメリットを説明したうえで、お客様が興味があること、やってみたいことがあれば信頼できる専門会社におつなぎします。借り入れが必要な場合は、どこの金融機関であればローンが組めるかもだいたいわかります。

――収入が少ないからとか、元手になる資産がないからといって、あきらめる必要はないのですね。

たとえば資産がなくても、借り入れができれば解決することは多くあります。金融機関の審査基準も、収入を重視するところもあれば、資産額を重視するところもあります。私たちはこうした基準を把握しているので、無駄な申し込みをすることなく、最短ルートで融資を引けます。

先日は、年収400万円の方が太陽光発電をやりたいと希望され、見事実現されました。本業の収入や自己資金が十分でなくても、相当な副収入を得られる投資はあるので、こうしたオプションを知っているかどうかでその後の生活は大きく変わってくると思います。