はじめに
湖北省武漢市を中心に発生した新型コロナウイルスは、中国経済に甚大なインパクトを与えています。そうした中、中国政府は2月24日、3月5日に開幕予定だった全国人民代表大会(中国の国会に相当)を延期すると正式に発表しました。
全人代は最高の国家権力機関で、省・直轄市・自治区・特別行政区および軍隊が選出する代表によって構成され、1年間の中国の基本政策などを決める最も重要な政治日程の1つです。新たな開幕日も示せなかった事態は極めて異例で、中国の新型コロナウイルス問題が依然として終息していないことを示唆しています。
実際、2月24日に北京で開催された「新型肺炎対策会議」で対策本部長(指導小組・組長)を務めている李克強首相は「感染拡大を抑えると同時に、工場の生産再開を推し進め、正常な日常生活を回復させるため、手を緩めるな」と檄を飛ばしています。中国政府が本当に抱く危機感などは、こうした最高指導部の動きからも見る必要があると思います。
労働力確保と感染抑制の難しい舵取り
中国・国家衛生健康委員会は、2月中旬以降、新型コロナウイルス「COVID-19」の新規感染者数は減少傾向にあると説明。国営メディアも「状況の改善は明らかだ」としきりに宣伝していますが、深刻化する人手不足など課題も少なくありません。
実際、中国・交通運輸部は2月15日に、春節休暇に故郷に戻った出稼ぎ労働者およそ2億2,000万人が都市へ戻っていないと指摘。出稼ぎ労働者は都市に戻っても2週間の自宅待機を求められることが多いため、労働力の確保が難しくなっているとの報道もあります。
こうした人手不足は工場再開の足かせになり、フル稼働にはまだまだ時間がかかるところが多いとも報じられています。中国政府は今後、新型コロナウイルスの感染拡大の抑制と出稼ぎ労働者の確保という、難しい舵取りが求められています。
グローバル化するウイルスの感染拡大
中国で新規感染者の勢いが一服したといわれる2月中旬からは、海外で新型コロナウイルスの感染者が急増しました。
それまで中国とは地理的に遠く離れた欧米の投資家にとって、新型コロナウイルスは「対岸の火事」程度にしか思っていなかったと思います。実際、中国で新型肺炎の感染拡大が続く中、米国のダウ平均は2月12日に過去最高値を更新しています。
ただ、2月下旬からこうした状況は一変しました。イタリアなど欧州でも感染が拡大しているほか、米疾病対策センター(CDC)が「米国内での新型コロナウイルス感染拡大は時間の問題」との見地から「国民は居住地域で流行に備えるよう強い警告」を発し、アジアでも韓国、イラン、日本などで感染者数が増加基調をたどっています。
このように新型コロナウイルスの感染拡大はすでにグローバルな問題になっています。中国で新型コロナウイルスの感染者数の拡大が一服しても、根本的な問題解決につながる可能性は低下したと思われます。世界的な感染拡大に対する懸念が落ち着かないと、中国経済の本格的な回復も後ずれするとみています。
<写真:代表撮影/ロイター/アフロ>