はじめに
中国の湖北省武漢市で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、世界でその猛威をふるっています。WHOは3月11日、「パンデミック(世界的大流行)と判断できる」とし、各国に対策の強化を求めました。
公衆衛生分野の最大の危機として、あらゆる分野で対策を講じた中国では、状況は大きく改善されています。解決すべき課題は多いものの、習主席は3月10日に武漢市を訪問し、その成果を強調しました。
欧州や米国で新型コロナウイルスの感染が拡大する一方、状況が改善してきた中国は、かつて流行したSARS(重症急性呼吸器症候群)の教訓をどのように活かしているのでしょうか。
武漢市の感染者は無料で受診可能
振り返ってみると、2003年のSARS発生に際して大きな問題となったのは、農村で公的医療保険制度が整備されていなかった点です。
感染の疑いがあっても、病院がある都市まで長時間移動しなければ診察を受けられない、さらには、高額な医療費を心配して治療を諦めてしまうなどの問題が発生しました。医療保険制度が整備されなかったために、結果的に感染を広げてしまう事態を招いていたのです。
国を挙げて新型コロナウイルス対策に乗り出した中国は、SARSでの教訓をどう活かすのか。公的・民間医療保障分野の最大のミッションは、治療費が払えないことを理由に医療機関が患者を拒否したり、医療費の支払いが困難であるがために感染を拡大させてしまうのを回避することでした。
医療行政面で大きな動きが見られるようになったのは、習主席が新型コロナウイルスの蔓延を全力で阻止するよう指示を出した1月20日以降です。その2日後には、法定伝染病(日本の指定感染症に相当)に指定。感染地域の封鎖、住民の活動や行動の制限、感染者や濃厚接触者の隔離治療などが法律(伝染病予防治療法)に基づいて実施されることになりました。
また、法定伝染病の指定とともに、国が公費補助を発表し、それを受けて、武漢市は病院での窓口負担が撤廃されています。
民間医療保険の役割は?
新型コロナがSARSの時と大きく異なるのは、社会インフラや産業のデジタル化が進んでいる点です。加入手続きや契約の保全、保険料や給付金の決済についても、ネット上で速やかに完結できます。
保険監督当局は、その担い手である保険会社に対して、本来は給付対象外であるケースについても保険給付を可能とすることや、医療従事者や公務員に無償で付保することなどを緊急要請しています。
たとえば、中国の最大手生保である中国人寿は、販売している重大疾病保険31商品について、新型コロナを給付対象にすると発表。条件は、被保険者が責任期間中に、医療機関において新型コロナと初めて診断された場合、かつ重症または重篤な状態と判断された場合としています。
保険金には上限を設けています。被保険者が新型コロナと診断された時点で、契約している保険金の25%を一回のみ給付できるとし、給付額は100万元を超えないこととしています。これで新型コロナと診断された場合、速やかに医療費の準備をすることができます。
また、中国人寿は、武漢市の最前線で働く医療関係者に無償で付保すると発表。新型コロナによって死亡した場合、1名あたり50万元(およそ800万円)を給付するとしています。武漢市で働く公務員と武装警察にも無償で付保するとし、新型コロナが原因で殉職した場合、1名あたり100万元(およそ1,600万円)を給付するとしました。
中国人寿グループ全体で、武漢市の最前線で働く医療関係者およそ32万人、武漢市の武装警察、湖北省以外の20の省・60万人の新型コロナにかかわる関係者(臨床試験関係者など)などに無償で付保することを決定しています。
<写真:ロイター/アフロ>