はじめに

今回のコロナショックを2008年のリーマンショックと比較する例が増えています。株価下落の大きさやVIXの跳ね上がり方など、いずれもリーマンショックに並ぶか、またはそれを超えるような衝撃です。

マーケットで起きたイベントも同様です。前回の金融危機ではリーマン・ブラザーズ破綻を引き金とする市場の大混乱に先行する格好で、割安な銘柄が一段と売り込まれ、割高な銘柄が一段と買われた、いわゆる「クオンツショック」というものが起きました。多くのファンドが統計的にはありえないほどの損失を被りました。

サブプライムローン問題の余波で、当時最大手のヘッジファンドのひとつだったゴールドマン・サックスの「グローバル・アルファ」が解約に迫られてポジションをアンワインド(巻き戻し)したことが発端でした。

今回もまた、3月半ばには異様な値動きをする銘柄が多く見られましたが、やはり世界最大級のヘッジファンドのアンワインドが発端ではないかと見られています。


リーマン時は買い占め起こらず

確かに市場で起きていることは、コロナショックとリーマンショックで似通っていますが、「市場の外」へ目を転じると違いに気づきます。街の店頭では、マスクは当然として、なぜかトイレットペーパーなどの日用品が品薄になっています。

トイレットペーパーなどの日用品の買い占めは、1970年代のオイルショックの時にも見られましたし、東日本大震災の直後にもコンビニの棚から商品が消えました。危機に際して、人々がパニック的な消費行動をとるのは今も昔も変わりありません。

では、リーマンショックの際に、日用品の買い占めが起こったでしょうか。もちろん、そんなことは起きませんでした。震災やウイルス感染の拡大は、言わば自然災害による危機であり人々の命や生活を直接脅かします。人々は防衛本能から買い占めという消費行動をとりがちです。

一方、リーマンショックの時にそのようなことが起きなかったのは、リーマンショックはあくまで金融機関の危機だったからです。金融市場は大パニックになっていましたが、一般の人々にとっては直接関係ないことだと思っていたのです。

本当に「見えなかったリスク」はリーマン

ところが、サブプライムローンを下敷きとする金融商品が巨大なバブルを生み出し、一般の人々の生活もその巨大なバブルの上に成り立っていたことに、ほとんどの人は気づきませんでした。

本来は社会経済の潤滑油の役割を担う金融の存在が巨大化し、まるで尻尾が本体を振り回すような存在にまでなっていたことにも気づかなかったのです。ですから、ひとたび金融危機へと突入すると、世界の経済は機能不全を起こし、一般の事業会社も業績が悪化、世界は大不況となってしまいました。

新型コロナウイルスとの戦いは、目に見えない敵との戦いであるとよく言われます。確かにウイルスは顕微鏡でないと見ることができない極小のものです。しかし、本当に「見えなかったリスク」はリーマンショックのほうだったと思います。だからこそ、危機の発端から終息まで長い時間がかかりました。

冒頭で述べたクオンツショックは、リーマン破綻の1年以上も前の2007年8月に起きたのです。クオンツショックに続くパリバ・ショックで、世間はようやくサブプライムローンの問題が金融市場を揺さぶっていることを知ることになりましたが、米国株はその夏のショックを乗り越えて2007年10月に再び最高値を更新しました。

ただ、それを最後に株式市場もさすがに勢いを失い、翌2008年3月のベア・スターンズの破綻を経て、その半年後、リーマン・ブラザーズの破綻へとつながっていったのでした。

グローバル金融危機は、危機の顕在化(2007年夏)からクライマックス(2008年秋)、そして終息(2009年春)まで結局2年近くを要しました。それはあくまで株式市場が底入れするまでの話で雇用の回復が軌道に乗るには、その後さらに長い時間がかかりました。

<写真:ロイター/アフロ>