はじめに

登園自粛をお願いすることに葛藤を覚えた

このように事態は刻一刻と変わっており、休園・休所をする保育園や学童保育所も少なくありません。Aさんの保育園ではどうなのでしょうか。

「3月からは、時短勤務や勤務時間の短縮、休業などになられた保護者のかた、在宅勤務やリモートワークの可能なご家庭などへは、基本的に登園を極力自粛していただくよう、安全な保育へのご協力をお願いしています」

働く母親の苦労が身をもってわかるだけに、自粛をお願いすることに葛藤を覚えたといいます。

「自粛のご協力をいただいているとはいえ、それでも3月〜4月初旬まで、通常時の半数ほどは登園していました。また平常時にはない特別な配慮や対応が必要なので、保育士の負担は身体的にも心理的にも増し、保育現場は疲弊しています」

また在宅勤務の可能な保護者であっても、すべての業務を在宅でできるとは限りません。在宅勤務のできる日と、出社せざるを得ない日とがある家庭も少なくないそうです。

「そのため、登園する日と、お休みをして家庭で過ごしていただく日とのあるお子さんもいますね。様子を見ていると、久しぶりに保育園でお友だちに会える嬉しさよりも、戸惑いを感じている印象のほうが強いですね。いまは保育中は、子どもたちも保育士も、ずっと皆、マスクをしている状態でしょう?
それで、お互いの顔や表情が見てとれないことも、子どもたちの戸惑いに輪をかけているように感じられます」

Aさんは、自らも子育て中の母親でありながら、保育士としての職務を果たすことへ努めています。

不本意とはいえ、家庭へ登園自粛の協力を求めなければ、保育の安全性を保つことはもちろん、保育士も必要十分な休養をとることが難しくなってしまいます。

保育士、保育園の職員や、学童の支援員らが十分な休養をとることができず、心身の疲労が重なれば、免疫力の低下や、心身の健康を損ねることに繋がりかねません。

保育士は、ただでさえ、平常時から重労働や低賃金の問題が叫ばれている職種です。現在の新型コロナウィルスの感染拡大下においては、なおのこと、過重労働や過剰な負担から守られるべきではないでしょうか。

名古屋市や、東京都港区の保育園で、保育園の職員が感染し、感染が発覚する前に園児らと接触していたことも報道されました。

新型コロナウィルスの問題が発生する以前から、通常時にもいえることですが、保育士や職員、支援員の心身の健康を保つことは、安心かつ安全な保育環境の維持に繋がります。

ひいては、それがひとりひとりの子どもたち、そして保護者や子育て家庭の安心、保護者の仕事を含めた社会生活や、安定した暮らしの基盤となるのは自明の理です。現在は、未曾有の事態により、経済基盤や社会生活そのものが、根本から脅かされている状態です。

保育士へ苛立ちをぶつける保護者も

さらに4月7日に出された7都道府県への緊急事態宣言を受けて、Aさんの勤務する保育園でも方針が変更されたといいます。

「4月13日から、保護者のかたが、医療や看護、介護関係など、生活に必要不可欠なインフラに関する職種であるご家庭以外のお子さんは預かることができない、ということになりました」

4月10日に、保護者への一斉メールで配信した上で、迎えにきた保護者たちへ、ひとりひとり文書で保育条件を示しながら説明をしたそうです。

「どうしよう…と愕然とする親御さんがほとんどでした。祖父母や親族など頼る人のいないご家庭もあれば、ひとり親のご家庭もあります。私たちもお伝えしていて、とても心苦しくて…。私自身、保育士である前にひとりの働く母親でもありますから、大変さやお気持ちはとてもよくわかりますから」

保護者の反応をより詳しく聞くと、困惑する人、不安やショックを隠せない人、怒りをあらわにする人など、さまざまだったそうです。

「この状況ではしかたがないですね。うちは実家も遠く、親や親戚も高齢ですし、実母は糖尿病で基礎疾患もあるので手伝いにきてもらうというわけにもいかなくて…。でも、どうにか手段を考えます。先生たちも大変ですよね。お身体に気をつけてくださいね」と保育園や保育士に対し、気遣いを見せる保護者もいました。

しかし子どもの手を引き、とぼとぼと帰るうしろ姿がいつもより小さく見えて、先の見えない不安が滲み出ているようだったと、Aさんは振り返ります。

若手の保育士のなかには、保護者から苛立ちをぶつけるかのように「どうしろっていうの?!」と詰め寄られた人もいたといいます。

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