はじめに

シェアリング・エコノミーの光と影?

シェアリング・エコノミーの問題点として、よく議論されるのは次の2点です。1つめは、その従事者たちに、いわゆる被雇用者としての地位がないことです。Uberのドライバーなども、独立事業主として働いており、充分な社会保障、保険などがないといったことが危惧されています。Uberドライバーを初めて包括的に調査した社会学のアレックス・ローゼンブラットも次のように述べています。

「[Uber社は]あなたがたは『自分自身の上司になれる』アントレプレナー(起業家)なのだと鼓舞する。Uberは法的なねらいから、ドライバーを個人事業主に分類している。つまり彼らは、従業員が受ける資格のある雇用および労働の法的保護から、ほとんど除外されている」*6

2019年に米・カリフォルニア州では、Uberドライバーなどを「従業員」であると認める法案が通過しましたが*7 、世界的には、まだこれは非常に例外的かつ稀有な事例です。

Uberに代表されるようなシェアリング・エコノミーの問題点の2つめは、それが現実には非常に不安定な労働なのではないか、という懸念です。労災などへの保障が不充分であるという指摘は根強くあるようです。ある研究では、ギグ・エコノミー従事者について「選択やコントロールがないこと、無力感の経験、低い賃金、ひどい労働環境、疎外、不安、そして不安定さ」があると主張しています。*8

日本のUber Eats従事者たちでさえ、「ウーバーイーツユニオン」を結成し、報酬が一方的に引き下げられたことに対してUber社に抗議し、団体交渉に応じるよう、2019年11月に要請しました。*9

また、プラットフォーム・エコノミーの根本的特徴として、賃金やアルゴリズムの決定が、親元のアプリ提供会社にほぼ完全にゆだねられているという状態を問題視する見方もあります。そしてそれは、GAFA(Google, Apple, Facebook, Amazon)が支配する今のインターネット界とも通底している、とローゼンブラットは示唆しています。

「グーグルは、その検索プラットフォームが本質的に民主的で公正であるという信念をうまくつくりあげてきた。同じように、フェイスブックも……『中立的なフェイスブックの偽りの夢』と名付けた危ない橋をわたっている……顧客利益第一を主張するアマゾンが、ランキングを利用して、より高額な製品へと顧客を導いている」*10

シェアリング・エコノミー、プラットフォーム・エコノミーに関して、ほかにも社会的に議論を巻き起こしてきている事柄は、こうしたテック企業の市場参入に対する、既成業界からの反発をめぐるものです。

2015年に、日本でも福岡県でUberの実験が開始され、運賃は取らずに、公募採用されたドライバーに「データ提供料」として対価を払うというかたちでおこなわれました。*11 しかし、国土交通省は、それが道路運送法に抵触する可能性があるとして、実験の中止を呼びかけたそうです。つまり、営業許可なしに自家用車で営業してしまうと現在の日本では「白タク」行為(白ナンバープレートをつけた車[自家用車]による違法なタクシー営業)と同じ扱いになってしまうのです。

AirBnBなどの民泊へも当初、反発があったのは記憶に新しいところかもしれません。オリンピック開催やインバウンド消費の受け皿として民泊が期待されたものの、旅館業法などに抵触することや、一般のマンションを民泊に提供する際の近隣住民からの苦情などで議論が巻き起こりました。それらを受け、2018年にようやく住宅宿泊事業法(民泊新法)が施行されています。日本人のあいだには、素人が第三者に対して責任を負うことをめぐって、一定の忌避感が存在しているのかもしれません。

*6 アレックス・ローゼンブラット 飯嶋貴子訳 2019『ウーバーランド:アルゴリズムはいかに働きた方を変えているか』青土社。
*7 https://wired.jp/2019/09/17/california-gig-workers-become-employees/
*8 MacDonald & Giazitzogle. 2019. “Youth, Enterprise and Precarity: Or, What is, and What is Wrong with, the Gig economy?” Journal of Sociology. Vol. 55 (4): 724.
*9 https://www.ubereatsunion.org/
*10 ローゼンブラット、前掲書。
*11 https://jp.techcrunch.com/2015/03/04/jp20150304uber/

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