はじめに
シェアリング・エコノミーとは
このように、従来の資本主義とは違ったかたちで、市民同士が資産やモノを共有するといったイメージがシェアリング・エコノミーという言葉にはあります。
情報社会学の荘司昌彦先生もシェアリング・エコノミーについて「『カネのにおいがしない』思想や心理にもとづく経済活動と考えられ、これまでの農耕社会、産業社会の価値観では理解しきれないものが現れてきている」と述べています。*1 地元の人とおしゃべりする、あるいはAirBnBで地元の人たちと同じように暮らしてみる。そういった体験のあり方はしばしば Authenticity – 真正な、本物らしい体験の価値 -- として語られています。
働き方に則して言う場合、「ギグ・エコノミー」という言い方も一般的になってきました。イギリス英語ではいわゆるライブやコンサートのことを「ギグ」と言いますが、ギグに関わるミュージシャンたちがそうであるように、1回ごとの単発の仕事を請け負い、その仕事が終わればそのチームはいったん解散、といった自由な働き方を指しています。Uberのドライバー、Uber Eatsのデリバリースタッフや、リクエストがあった時にだけ応じる民泊のオーナーなども、広い意味ではギグ・エコノミーの担い手であると言えるでしょう。
さらに、プラットフォーム・エコノミーという言葉もあります。これは、アプリなどのプラットフォームを通じておこなわれる経済活動全般を指します。要するに、モノの「共有」という行為に期待をかければシェアリング・エコノミー、自由だけれども時に不安定な「働き方」に注目すればギグ・エコノミー、「アプリ」によるマッチングの側面に注目すればプラットフォーム・エコノミーと呼ばれやすいようです。UberアプリやAirBnBサイトでも、サービス提供者と受給者双方が評価され、互いへの感想コメントを書ける機能などが備わっています。
シェアリング・エコノミーは、少なくともその先導者からは、これからの未来の働き方のスタイルのひとつとして喧伝されています。「今まで有効活用されていなかった潜在的資源を、必要とする小さな個々のニーズと[アプリやインターネットを通じて]マッチングさせることで、資源の有効活用を可能にした点で非常に将来性のあるビジネス」との指摘もあります。*2 「2018年度のシェアリングエコノミーの国内市場規模は824億円となり、2022年度に1386億円に膨らむ見通し」との予測もあります。*3
アメリカの研究では、こうしたプラットフォーム・エコノミーの従事者の実像について、少しずつ明らかになってきています。アメリカでの従事者は1000万から4000万人とも言われ、通常の労働者の平均像と属性はそう変わりなく、大半の人は副収入としてこうしたビジネスをやっているそうです。「就労者は、補完的な収入や在宅時間や労働時間を決められることをメリットと感じているが、収入・仕事が不安定な点、待遇が不公正な点に不満を感じている」。*5 2016年ごろの調査で、こうした労働者の、シェアリング・エコノミーから得た月収平均は533ドル(約5万5千円前後)。また、女性の従事者のほうが収入がやや少ないこともわかっています。
*1 https://www.dhbr.net/articles/-/5111
*2 國見真理子 2019「新たなビジネスモデルとしてのシェアリングエコノミー:今後の規制を視野に入れつつ」『慶應法学』42、p. 104。
*3 『日経コンピューター』2019年11月28日号、p. 64。
*5 藤木貴史 2018「アメリカにおけるプラットフォーム経済の進展と労働法の課題」『季節労働法』261号、p. 63。