はじめに
"子どもが仕事か"の二択ではない
6月からは感染対策を講じた上での保育体制に戻りました。Aさんの会社は当面は出勤する日と在宅勤務とを併用していくといいます。保育園は、在宅勤務の可能な家庭の子どもも含め、預かり可能となっています。
「でも、もう怖いです。送迎のときにほかの保護者のかたに会っても、影でいろいろと言われていると思うと…。人間不信というか、ほかの保護者のかたと顔を合わせるのが怖くて。在宅勤務の日には遅めに登園させて、早めに迎えに行っています。でもそれも限界があります。出勤する日もありますし、やがて通常勤務に戻ったときにはほかの保護者のかたを避け続けられるわけでもありません」
ほかにも在宅勤務のつらさを訴える保護者へ「子どもと仕事とどちらが大事なのだ」「テレワークやリモートワークができるのにつらいなんて贅沢。ずるい」「(保育園や学童に)預けるな」という批判も聞かれました。
しかし子育てに安定した経済基盤は必要不可欠です。"子どもか仕事か"という二択を迫られるものではなく、仕事があってこその子育てなのです。働く保護者にとって両者は不可分なものであり、子どもを育てる土台となるのが仕事、収入であり、そこが揺らぐことが不安なのです。
また仕事にならないことで、子どもを責めるような気持ちとなってしまうことへ罪悪感を感じたり、周囲の「贅沢」「ずるい」という目を内在化させ、自分を責めてしまったりするかたもいました。
リモートワーク不可の仕事も悩みは尽きない
いっぽう接客業など、テレワークやリモートワークの不可能な保護者からも悩み苦しむ声が聞かれています。
・3月から営業時間が短縮となり、就労時間が短く収入減が不安だと思っていたら、ついには臨時休業となってしまい「明日から仕事がない。収入が途絶えた」(ショッピングモール内のテナントでパート勤務)
・時差通勤や時短勤務となっても、3〜5月、特に緊急事態宣言後は、公共交通機関の乗車率が抑えられたとはいえ、それでも都心部ではそれなりの人数が乗車しているなか、感染の不安を抱え戦々恐々としながら出勤している。万一のことを考えると、自分のキャリアや収入は、命の危険を負ってまでやることなのか、天秤にかけて考え込んでしまう。またもし自分が通勤していることで感染したら家族へも感染させてしまうのではないかと怖い。(金融系の管理職)
・4月初旬頃は休業補償を得て休業をすることと、外出自粛で客足が遠のいているなか、短縮した時間で営業を続けて得られるであろう利益、大学生のアルバイトの人件費などの経費、また一度休業すると顧客が離れてしまうだろうことなどを天秤にかけて悩んだ。(飲食店の経営者)
・4月初旬に新入社員の研修で大阪の本社へ出張することとなり、こんな時期に都市部へ出張なんて、と思いながら向かったが、研修をオンラインで行うこととなり、感染の不安を抱えただけで出張した意味がなかった。(小売りチェーン店に勤務)
・物流の配達員だが、荷物の受取り時にサインレス可となるなど、配達先との接触を減らす工夫がされているが、感染リスクは高い仕事ではあると思う。配達先から心ない言葉を投げかけられたり酷い対応を受けたこともある。また自分の職業を知る周囲の人から、妻や子どもが差別や偏見、いじめを受けないか心配。(物流の配達員)
・医療従事者へ感謝をしてくれたり労ってくれたりする声も多いものの、いっぽうで感染リスクが高いと思われており、家族が「周囲から避けられる」と悩んでいる。自分は整形外科医だし、勤務先の病院では新型コロナウィルスの検査も実施していない。雇用や収入が守られていることへの嫉妬や僻み、やっかみも含まれている様子だ。(総合病院勤務の医師)
また子どもを持つ保護者同士で、入学式の有無、オンライン授業の有無、休校中に祖父母を頼れるか否か、学校再開の時期などをめぐって、妬みや僻み、やっかみなどネガティブな感情が渦巻いたり、それによって保護者同士の人間関係がぎくしゃくしたり、あからさまに対立したりということも起きています。
子どもをインターナショナルスクールや私立校へ通わせる保護者からは「オンライン授業があって羨ましい、お金のある家はよいよねといわれるけれど、親がサポートしなければならないなど負担も大きいし、学習より学校への適応が不安。学費も通常授業の金額を支払っているのに」といった声も聞かれました。