はじめに
読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。今回は野瀬大樹氏がお答えします。
妻が個人事業主として独立しました。今年3月に夫である私名義で住宅ローンを組みましたが、妻は自宅を作業場として利用することが多いため、地代家賃としていくらか費用計上したいと考えています。青色申告を考えておりますが、この場合に注意すべき点などがございましたらご指南いただけるとと幸いです。
(30代前半 既婚・子供2人 男性)
野瀬: 自営業で自宅の1室をオフィスとして使っている方は多いのと思うのですが、この場合、自宅家賃は原則「経費」とすることができます。
自宅の家賃が経費となる3つの条件
ただしいくつかの条件があります。
(1)オフィスとして使っている部分が明確に区分されていること
(2)実際にその部屋を仕事に使っていること
(3)青色申告をしていること
つまり家賃の満額が経費になるわけではなく、面積に応じて経費の額を計算しましょう、ということになります。
たとえば、自宅が3LDKで、そのうち1室を仕事専用に使っているというケースであれば、ざっくり面積などで按分して20%や25%を経費としても特に問題にはならないでしょう。
過去には私も自宅で独立開業しましたので、自宅の1室分を経費で落としていました。今はオフィスを借りているので自宅家賃は経費にしていませんが、正直、今でも夜中は自宅で仕事をすることが多いので、少しばかり経費で落としたくなる衝動に駆られます(笑)。
「親族」に対する家賃の支払いは経費になるか?
では質問者の方の場合、相場としておかしくない金額であれば奥様から支払ってもらう家賃は奥様の経費になる……と思うかもしれませんが実際はそうではありません。
この規定には例外があります。
(i)生計を同じくする
(ii)配偶者親族に対する家賃の支払い
上記の場合は経費にならないのです(参考:国税庁 やさしい必要経費の知識)。
これは夫婦や親族であれば、家賃のふりをして互いにお金を融通し合うことが可能ですので、それを防ぐためにある制度です。
ただ当然ですがその場合は、質問者の方が奥様から受け取った家賃も質問者の方の「所得」には含まれませんのでご安心ください。
経費にすることは不可能なのか?
自宅の一部を犠牲にして仕事をしているのに、一切経費にならないなんて……と思うかもしれません。そんな方のために所得税法の通達56-1では、親族や配偶者から無償で提供された不動産の「減価償却費」を経費に入れてよい旨が記載されています。
まず自宅の減価償却費を計算し、その使用割合に応じて20%や25%を経費にすることができるのです。木造なのか鉄筋鉄骨なのか自宅のジャンルを確認し、対応する耐用年数で計算を行ってください。
ただし、1点気をつけていただきたいことがあります。
この場合「事務所として使用」とされた部分については「住宅ローン控除」が受けられないことになります。住宅ローン控除は非常に金額的インパクトが大きな制度ですので、これがなくなると大損です。
「住宅ローン控除で返ってくるお金」と「減価償却費を経費にして節税できる金額」を比べて判断するようにしてください。
自営業を始めたばかりのころは、儲けが少なく税率が低いか、そもそも儲けが出ずに赤字であるケースがほとんどかと思いますので、「住宅ローン控除で返ってくるお金」のほうがおそらく大きいと思います。
とりあえず儲けが安定するまでは自宅を経費としては考えず、もう少し経営が安定したタイミングで、住宅ローン控除で返ってくるお金との兼ね合いで考えればよいと思います。