はじめに

「ストレスを避けるのは、食べ物や愛を避けるようなもの」

いわば、ストレスが私たちにもたらすメリットとはバイオリンの弦のようなものです。弦がピンと張りつめすぎれば甲高い音しか響かず、ゆるすぎれば濁った音しか鳴りません。良い音を奏でるには、適度な張りに調整する必要があります。

要するに、組織内のランクが高い人ほど幸福なのは、ランクが低い人よりもストレスの張りを調整しやすいからです。当然ながら、会社で上の地位に就く人ほど仕事の裁量権が増え、作業を自由にコントロールできるようになるでしょう。仕事が難しいと思っても概ね自分の好きなペースで行えますし、無理をして嫌な人と付き合わねばならないリスクも減るはずです。

ところが、地位が低い人は好きなように締め切りを動かせず、仕事の内容を自分で選ぶわけにもいきません。コントロールの範囲が狭いぶんだけストレスも調整できず、結果として幸福度は下がります。

「昇進」といえばまずは給料アップのメリットが頭に浮かびますが、実際にあなたの幸福度を左右するのは裁量権のほうです。

まとめると、ストレスは諸刃の剣であり、私たちの幸福度を上げる方向にも下げる方向にも働きます。ブラック企業のように慢性的なストレスが延々と続く状況は論外ですが、楽すぎる仕事もまたあなたを不幸へ追い込むのです。

良いストレスと悪いストレスには、大きく先の表のような違いがあります。悪い
ストレスが免疫システムの働きを狂わせて脳の働きまで低下させるのに対し、良いストレスは仕事に取り組むモチベーションを高め、身体の疲れも取り除く働きがあるわけです。

ストレス学説の生みの親であるハンス・セリエは言います。
「ストレスを避けてはいけません。それは食べ物や愛を避けるようなものです」

体を鍛えるためには筋トレやランニングで適切な負荷を与えねばならないのと同じように、私たちの幸福感も適度なストレスがなければ成長しないのです。

●プロフィール
鈴木祐 作家
1976年生まれ、慶応義塾大学SFC卒。16才のころから年に5,000本の科学論文を読み続けている、人呼んで「日本一の文献オタク」。大学卒業後、出版社勤務を経て独立。雑誌などに執筆するかたわら、海外の学者や専門医などを中心に約600人にインタビューを重ね、現在は月に1冊のペースでブックライティングを手がける。
近年では、自身のブログ「[パレオな男](http://yuchrszk.blogspot.jp/)」で健康、心理、科学に関する最新の知見を紹介し続け、現在は月間250万PV。ヘルスケア企業などを中心に、科学的なエビデンスの見分け方などを伝える講演も行っている。

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