はじめに

賃金交渉は、労働組合から個人へ

日本ではこれまで、企業に賃上げを求めるのは、もっぱら労働組合の役目だと考えられてきました。しかし、労働組合の組織率は、戦後の56%からいまや17%まで低下しています(厚生労働省「労働組合基礎調査」)。

また、人材の流動化により、働き始めてから一度でも退職したことがある個人は70%に達しています(リクルートワークス研究所「全国就業実態パネル調査2017」)。もはや大半の労働者にとって、労働組合も終身雇用もないに等しいのです。

だとすると、伝統的な集団的労使間関係とは異なる、賃金交渉の新たな仕組みが必要です。

転職者や有期社員は「一人春闘」

終身雇用が続いていれば、新卒で企業に入った後は、その企業の賃金等級制度にのっとって賃金が決まっていきます。企業全体で最適化された賃金等級制度に、個人が口をはさむのにも限界があるでしょう。そのため、労働組合がベースアップや昇給を勝ち取ることで、賃上げを実現してきたのです。

しかし、いまや雇用が流動化しています。新卒社員と違い、キャリアの途中で入職してくる転職者や有期社員は、最初にどの等級に位置づけられるかにより、その後の賃金も変わります。

転職者や有期社員はそれぞれ、能力や経験、入社時期が異なるため、新卒社員のように一律で労働条件を決めることはできません。彼らは雇用契約の締結時や更新時に、自分自身で企業と待遇についてすりあわせなければなりません。それはまるで「一人春闘」です。

雇用の流動化によって、賃金交渉は「集団から個人へ」「雇用契約期間中から契約の締結・更新時へ」重要性が移っています。自分自身で賃金について企業とすりあわせていく意識や行動が求められつつあります。

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