はじめに
彼の言葉に笑えなかった
9月末になっても彼女の仕事は決まりませんでした。今までとは違う仕事でもかまわないと応募し続けましたが、なかなか面接にさえ進めません。それでも数十件、面接にこぎつけました。
「全滅です。落ち込んでいると彼が、『今まで10年以上も社会人やってきて、自分のウリになることもないの?』と言い始めて。一応、専門職だったのだし、コロナ禍でその枠が減っているのも事実なわけで……。そんな責めるような言い方をするなんてとショックを受けていると『家賃がいつまでも援助されると思わないでね』と笑いながら言ったんです。さらにショックでした。私の顔を見て彼はあわてて、冗談だよ、笑ってもらおうと思っただけと言い訳しましたが、笑えるわけがありません」
彼女は10月始めに彼から手渡された家賃半額分を受け取りませんでした。そしてその前の3ヵ月分も叩き返しました。貯金を崩して……。
「定期預金を取り崩したときはチェッと思いましたが、『金輪際、会わないから』と彼の前にお金を入れた封筒をバンッと叩きつけたときはスッキリしました」
どんなに困っても、つきあっている段階で相手の経済力に頼ると関係があっという間に平等ではなくなる。ミフユさんはそのことを心に刻み込みました。今年中に仕事が決まらなければ、彼女は故郷に帰るつもりだそうです。