はじめに

「アクティビスト」という言葉に対してどのような印象を抱くでしょうか。

「モノ言う株主」と訳されることが多く、「経営陣に敵対的な要求をつきつける」といった強気で高圧的なイメージを持つ人も多いかもしれません。

実は、アクティビストは企業の価値向上や市場の活性化に貢献する役割を持ち、個人投資家の強い味方でもあります。

マネックスグループが2020年6月25日に設定した「マネックス・アクティビスト・ファンド(愛称:日本の未来)」は、公募投信ながら「アクティビスト」という言葉を名称に入れている珍しいファンドです。

なかなか知る機会がないアクティビストの歴史と役割について、マネックス・アクティビスト・ファンドに投資助言を行うカタリスト投資顧問の代表取締役社長 平野太郎氏と、取締役副社長COO小野塚惠美氏に解説してもらいました。

 カタリスト投資顧問 代表取締役社長 平野太郎氏カタリスト投資顧問 代表取締役社長 平野太郎氏

――リチャード・ギアはアクティビストだったのですね(笑)。その後はどう変わっていったのですか。

平野:欧米では、2000年くらいからアクティビストのスタイルは多様化し、企業の成長や企業価値の向上を目的とするWin-winな提案をするアクティビストが増えました。機関投資家が再編によって巨大化したことにより、合理的な提案は従前より他の株主の同意を得やすくなりました。

また企業側においても、ステークホルダー(利害関係者)である株主の意向に耳を傾けるようになり、対話がより積極的に行われるようになりました。ストックオプションなど企業価値に連動する報酬体系が整備されたことも関係があるでしょう。

日本でも、一部の外資ファンド等による敵対的TOBなど、経営側から反発を受けるアクティビストというイメージがありました。そのイメージは薄れつつあり、現在は建設的なアクティビスト活動がより以前よりも広く行われるようになりました。

――「建設的」とは具体的にどんなことでしょうか。

平野:企業の長期的成長に寄与する「働きかけ」をすることです。その過程において、経営資源をより効果的に活用してもらい、結果として資本効率を向上させ、企業価値も向上させます。

例えば、成長性の高い優良事業を抱えている一方で、必要以上に不採算事業に投資がなされるケースがあります。成熟産業において再編や統廃合が不可欠であるのに、我慢比べのジリ貧に陥っていることもあります。

建設的な提言とは、ヒト・モノ・カネといった経営資源を、成長性と付加価値の低い事業から高い事業に移す後押しをすることです。外部から見ると、そのような非効率が見えやすいのです。

この種の提案は、必ずしも目鱗のアイデアではなく、外部から見ると自明であることが少なくないです。では、なぜそれが行われないのか。実は経営陣もそのことをわかっていながら、「先代が力を入れていた事業だから」「取引先に恩があるから」といったしがらみに縛られていることがあります。

企業内外での様々なしがらみが変化を妨げているのです。日本企業では、長らく株式持合や終身雇用という習慣が幅を利かせてきました。そのため、しがらみが相当に強固でした。それらが、近年のガバナンス改革で変化を起こしつつあります。

人事権を統括している経営陣に物申せる社員は多くないでしょう。アクティビストが株主による牽制を利かせ、建設的な対話を行うことにより、資本の効率化が進み、企業の成長性、生産性も高まり、ひいては経済全体が活性化するのです。

機関投資家の責任とは?

――対話によって企業が成長すれば、投資している株主の利益にも繋がりますね。

小野塚惠美氏(以下、小野塚):その通りです。そこで重要になるのが「日本版スチュワードシップ・コード」と「コーポレートガバナンス・コード」です。

「スチュワードシップ」とは責任を持って財産を管理するという意味で、「コード」は行動規範を意味しています。歴史的には、英国で生まれた概念で、日本では2014年に第二次安倍政権の第3の矢である成長戦略の施策の一環として運用が開始されました。

スチュワードシップ・コードは、機関投資家向けの規範で、年金基金や個人投資家などの資金提供者から預けられた資金を、受託者として責任をもって運用することを定めたコードです。

一方で、投資される側の企業に対しては、コーポレートガバナンス・コードがあります。これは企業側に求められる行動規範で、企業経営を管理監督する目的で作成されました。例えば、上場企業は株主と建設的な対話を行うべきである、などといったことが定められています。

アクティビストを含む機関投資家はスチュワードシップ・コードに則り、機関投資家としての責任を果たすべく投資先に対して、健全な企業経営を求めていきます。

――「責任」とはどのようなことでしょうか。

小野塚:一言で言うと、中長期的にリターンを最大化することです。そのために、投資先企業を深く理解すること、議決権を適切に活用して経営に対する意見を表明すること、対話を通じて企業に気付きを与えて行動変容を求めることが重要になってきます。