はじめに

また、不動産投資市場では「物件の価格が安いか高いか、これから上がるか下がるか」が重要な投資指針となりますが、住宅購入の検討はこれとは全く異なります。

少し古いデータですが、住宅金融支援機構による2013年の調査(30代、全国、3つまで回答)では、住宅購入の動機として「子供や家族のため(50%超)」、「結婚を機に(20%)」など、ライフステージに関わる動機が、「金利が安い(10%弱)、消費税引き上げ前だから(10%強)」などの経済的動機よりも大きな割合を占めています。つまり住宅の購入は、「購入を検討する層のライフステージにかかわる変化」の影響を強く受けます。この点からも、コロナ禍でも住宅需要が大きく減退する可能性は低く、マンション価格は下がりにくいと思います。

一方で、手ごろな価格の新築マンションの供給が大幅に減っていることから、手ごろな価格であれば買いたいという潜在的な需要はむしろ強まっていると思われ、このような需要を、相対的に価格の低い中古マンション市場が、その需要をある程度引き受けており、中古マンションの成約件数は緩やかに上昇しており、価格についても上昇傾向です。

ただし、中古マンション市場が新築マンションの発売戸数の減少分を完全に引き受けることは難しいと思います。首都圏の新築マンションの発売戸数は、2005年には8.4万戸であったのが、2015年には4.0万戸(対2005年比▲4.4万戸)、2019年には3.1万戸(同▲5.3万戸)にまで減少しました。これに対して、中古マンションの成約件数は、2005年が2.8万戸、2015年が3.5万戸、2019年が3.8万戸と、単純な比較ですが、新築マンションの販売戸数の減少幅に比べて中古マンションの成約する戸数は小さくなっています(図表3)。中古マンションの売り主は、そのマンションに住んでいる場合がほとんどで、今住んでいるマンションを売却するためには、新たな住居となるマンションを購入しなければなりません。需要が高まっているからといって、必ずしも良質な中古マンションの供給戸数が急に大きく増加するわけではないのです。

繰り返しになりますが、今後しばらく、新築マンションの価格は高い状態が続きそうです。また、中古マンションの価格は供給が足りなければ新築マンション価格に近付いていく傾向があります。短期的に見れば、一時の需給変動により価格が上下するかもしれませんが、長期的に見れば、新築マンションの価格上昇と発売戸数の減少の影響を受け、中古マンションについても、価格が上昇し、取引件数も徐々に増加していくのではないかと思われます。従いまして、もし、気に入った物件があれば、値下がりなど待たずに購入することも検討してみてはどうでしょうか。

図表3 中古マンションの供給戸数と平均価格

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