はじめに
企業の働き方改革支援を事業としているクロスリバーは、ビジネスパーソン1万8000人を定点カメラ・ICレコーダー・GPSで調査、AI分析した結果、人事評価で「トップ5%」の評価を獲得していた社員には、再現性の高いルールがあることを発見しました。前回に引き続き、日本マイクロソフト業務執行役員の出身で、クロスリバーの代表取締役社長CEOである越川慎司氏の著書『AI分析でわかった トップ5%社員の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)から抜粋して紹介します。
「好意の返報性」
「5%社員」は、仕事に対しての知識を十分保有しており、しっかりと考えて動くことができます。しかし、知識があるからと言って、それをひけらかしたり、他の人を下に見たりということを決してしません。
先輩だったり、上司の立場にあると、後輩や部下たちに対して偉そうな態度を取ってしまいがちです。過去の武勇伝を何度も話すダメ上司はこの部類です。しかし、「5%社員」はそういったことはせず、むしろ謙虚で、さらに質の高い知識を
習得しようと貪欲です。
つまり、「5%社員」は、「自分がわからないことがある」「まだ学べていないことがある」という前提に立っており、他者から自分が持っていない知見を獲得しようとしています。
「5%社員」は、自分がわからないことに当たった時は、質問をし、わからないところをそのままにはしておきません。問題に対して真摯に学び、新たな知識を得ようとします。そうすることで、上司からも信頼され、部下からも慕われるようになります。
また、相手に腹を割らせるには、自分も腹を割らないといけません。これは心理学でいう「好意の返報性」に通じるものがあります。
人に何か施しを受けたとき、お返しをしなければいけないという気持ちになることを「返報性の原理」といいます。先に相手が自己開示したとき、自分も同じ程度の情報を開示しようと考えるのは、この返報性の原理によるものです。
例えばデパートの地下の食品売り場での試食は、この「返報性の原理」を利用したものです。ちょっとしたものでも試食をしてしまうと、それを買わないといけないのではないかという負い目を感じて、ついつい購入してしまうものです。
「返報性の原理」は人とのコミュニケーションにおいても適用できます。相手が素直に腹を割って話せば、自分も腹を割って話したいと思うのです。例えば、同僚の働きがいを聞いてみたいと思ったら、「お前の働きがいって何?」と、一方的に聞いても12%の人しか答えてくれません。
一方、先に「自分がどういう時に働きがいを感じたか」というストーリーを伝え、その上で「働きがいを感じたことある?」と聞くと78 %の人が自分の働きがいを答えてくれます。
これは相手の精神的なハードルを下げる効果もあり、何でも言い合える心理的安全性が担保されるので、様々な情報を聞き出すことができます。「5%社員」はこの原理を理解しており、相手に多くの意見や情報を出させることを狙っています。