はじめに

金融緩和の縮小でショックは起きるのか

市場の一部では、経済対策やワクチンの普及などで景気回復が強まれば、量的緩和縮小を検討する時期が早まるとの思惑が根強く残っています。金融緩和終了の前に、市場がその予兆を察知するか、もしくはFED(連邦準備制度)と市場のミスコミュニケーションがあれば、大きな波乱となるリスクがあるでしょう。

2013年に起きた「バーナンキショック」または「テーパータントラム」の再来を危惧する声はとても多くあります。

しかし、筆者はその可能性は高くないと考えます。テーパータントラムが起きた2013年の状況とは異なる、というのがその理由です。

当時のバーナンキFRB議長がテーパリング(量的緩和策として中央銀行による金融資産の買い入れ額を縮小すること)の可能性に言及した2013年5月は、前年9月に開始された量的緩和策第3弾(QE 3)の最中でした。

QE3は2013年12月に縮小が決定、2014年10 月末に終了しましたが、バーナンキショックの時点ではFEDは月850億ドル規模の買い入れを着々と進め、市場もそれにどっぷり頼り切っていたのです。

ところが現在はFEDの資産購入のペースはすでに落ちています。FEDのバランスシートはコロナ対応で昨年の春から夏にかけてわずか3ヶ月で4.3兆ドルから7.1兆ドルに急拡大しましたが、その後はいったん減少に転じるなどして、いまは微増であり、少なくとも拡大ペースは完全に鈍化した状態です。

もちろん資産購入額自体は大きいのですが、資産全体からすると比率はわずかでバランスシート拡大へ寄与していません。ペースが落ちた2020年6~12月までの資産の増加率は月平均0.5%で、これは2014年からテーパリングが開始されて終了する期間の増加率を下回るくらいです。

テーパリングというのは買い入れ額の縮小であって、バランスシートの規模自体を縮小するわけではありません。2013年当時はバランスシート拡大ペースを鈍化させることに市場はタントラム(癇癪)を起こしたのですが、今は十分に資産購入ペースを減らしているのに、市場はまったく平気です。バランスシートの規模自体を縮小するというのであれば話は別ですが、それはまだ先のことでしょう。

そして、もうひとつ、テーパータンドラムは実現しないと思う理由があります。

いま、 市場関係者に訊けば、100人中100人が、それをリスクと指摘しています。細部に違いはあれ、大方は「コロナピークアウトの兆し⇒景気回復期待の高まり⇒市場が金融緩和の終了を意識⇒長期金利上昇」というリスクシナリオを描いています。

しかし、100人が100人ともリスクと指摘するようなことは起こらないのが相場の常です。これは筆者が30年以上に及ぶマーケットの経験から得た知見のひとつです。

<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>

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