はじめに

私たちが自分の意思で「選択している」と思い込んでいるものは、実は「遺伝子」によって先天的に決められているのかもしれない。人間は遺伝子によるコントロールから逃れられないのだろうか――。『「運命」と「選択」の科学』では、注目の若手脳神経科学者・ハナー・クリッチロウが、そうした疑問の解明に挑みました。同書のポイントを紹介します。

文:日本実業出版社WEB編集部


「選択する」=「遺伝子の命令に従っている」?

今日のランチは何にしようと考えながら、あれこれメニューを想像するのは、私たちにとって日々のささやかな楽しみです。予算や時間といった制約はあるものの、誰に気兼ねすることもなく、自分が食べたいメニューを自由に選ぶことができる満足感は、決して小さくありません。

そうした日常的な場面ではあまり意識されませんが、私たちの人生は無数の「選択」で成り立っています。からあげ定食かサラダランチかを決めるのも選択なら、どういう会社に就職し、誰と結婚するかといった人生を左右する大事な場面でも、さまざまな事情を考え合わせながら、私たちは自分自身の意思によって選択しているのです。

そして、その過程に遺伝子が関係していることも、近ごろではよく知られるようになりました。ランチにからあげ定食を選びがちな人は、そもそも遺伝子に高カロリーな食事を求めることがプログラムされている、というのです。そうであるなら、ランチのメニューを自由に選んでいるというのは私たちの思い込みで、実際には遺伝子の命令に従っているだけ、ということになります。

私たちの自由意志とは、いったい何なのか。私たちの行動は、遺伝子によってどの程度までコントロールされているのか。『「運命」と「選択」の科学』では、気鋭の神経科学者として知られるイギリス人女性が、そうした疑問の解明に挑んでいます。

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