はじめに
高齢無職世帯は支出超過の状態に
無職世帯の支出額に目を移せば、月々の支出は年金収入を超えています。65〜69歳では8.7万円、70〜74歳では6.5万円と、一定の赤字額が毎月計上されており、多くの働かない年金世帯が、貯蓄の切り崩しによって赤字額を穴埋めしています。
一方で、年齢を重ねるにつれて、その赤字額が少しずつ減っていくことも注目されます。これは歳を重ねるにつれて、先述のとおり、世帯の支出額が減少する傾向があるからです。
高齢になるほどに貯蓄が減少して倹約を余儀なくされているという見方もできそうですが、どちらかというと体力の衰えからこれまでと同じような消費活動ができなくなるという側面の方が強いのでしょう。
要するに、老後に乗り越えるべき経済的な障壁は75歳までにあります。老後に最も生活が逼迫する時期は、定年直後から70代前半にかけて訪れる。そこさえ乗り切れてしまえば、貯蓄額がそこまでに多くなかったとしても老後に資金が不足する可能性は低いと言えます。
月10万円の収入を稼ぐのは難しくない
この事実をどうみるべきでしょうか。たしかに働かなければ家計が赤字になるのは確かですから、多くの人にとって定年後も働き続けることは、現代において避けられない現実です。
その一方で、定年前は手取りで月30~40万円の収入をいかに稼ぐかという問題に平均的な世帯が直面しているわけですが、定年以降は月10万円程度の所得をいかにして稼ぐのかということが平均的な世帯が直面する現実となります。世帯で手取り月10万円であれば、そこまで難しくないのではないでしょうか。
たとえば、コンビニの店員の仕事や飲食店の接客の仕事は時給1,000円くらいです。夫婦がともにこうした仕事に月100時間弱従事すれば、月10数万円は稼げます。月100時間というと、1日6時間の仕事を週に4日行うくらいの時間数です。月10数万円と年金収入があれば、老後の貯蓄を積み増しながら生計をやりくりできます。
もちろん、定年前に年金保険料を納めていなかった人、持ち家がなく著しく資産が少ない人などはもっと厳しい現状が待ち受けます。また、厳しい年金財政の中、年金給付額も今後緩やかに減少していくでしょう。
しかし、年金の受給額が急に半分になったりなくなったりすることはまずありません。多くの人にとって、たとえ小さな仕事であっても、それを続けていくことで十分に生活ができるというのが現実なのです。
定年後の仕事を考えるにあたっては、将来を楽観視して仕事をやめてしまうことは避けるべきです。そして、それと同時に将来に不安を感じて過度な負荷の仕事をする必要もありません。定年後は、実際にどれくらいの支出・収入が必要なのかをシミュレートして、世の中に必要とされる仕事で着実に社会に価値を生み出していくことを考えていきたいところです。