はじめに
投資をするなかで起こる心理的葛藤
ところが、「長期で運用すれば大丈夫」と、頭ではわかっていても、資産運用をしていると、日々の値上がりに一喜一憂してしまうものです。資産が増えればうれしく、そして、下がれば嫌な気分になります。
行動経済学と言われる学問の中の有名な理論に、「プロスペクト理論」と「アンカリング効果」というものがあります。
「プロスペクト理論」は、損失回避理論とも言われ、たとえば、
A:100%の確率で100万円が当たる
B:50%の確率で200万円当たり、50%の確率で1円ももらえない
という2つのくじ引きが選べるとして、どちらを選ぶか?という質問に対して、Aを選ぶ人が圧倒的に多いという調査結果があります。このクジの期待値はどちらも100万円になり同じなのですが、Bを選ぶと半分の確率で1円ももらえなくなってしまうことがあるのでその損失を回避する意識が働くというものです。人には、とにかく損失を嫌う傾向があるので、冷静な判断ができなくなってしまうというものです。
「アンカリング効果」は、例えば「このツボは10万円より安いと思いますか? 高いと思いますか?」と聞くと、値段の基準が10万円をもとに考えます。ツボは1億を円超えるかもしれませんし、1,000円しないものかもしれませんが、「8万円かな……いや15万円くらするかも?」などと、10万円を前提に近似値を考えてしまいます。
これは、株価が規定されて自分の資産額が増えると、その増えた状態を基準に株価が上がった・下がったと考えてしまうことです。高値を経験するとそこにアンカリングされて、プロスペクト理論とあわさると、高値から損をしたという気分になってしまうことがあるのです。
株価が下がっているときに上記の感情や思考に支配されると、資産を売却して避難する気持ちが働いてしまいます。もちろん損切りをするということは、短期投資の個別株などでは避難行為としても重要なのですが、グローバル分散の長期投資の場合は、売って逃げないことが重要になります。
「稲妻が輝く瞬間」を逃さないために
安いときに買って、高いときに売ることが投資では重要になってきますが、いつが高くて、いつが安いのかを見極めるのは非常に難しいです。また、株価が下がっても当該金融商品を売らずに長期で持ち続けられるようにすることが肝要です。なぜなら、自分にとって「これ以上さがったら怖いから売りたい」と思うタイミングは、他の多くの投資家にとって絶好の買い場になることがあるからです。
チャールズ・エリス教授による投資の名著、『敗者のゲーム』によると、株価が大きく上昇するタイミングを「稲妻が輝く瞬間」という言い方で表しています。例えばS&P500の2,000年までの72年間の分析をおこなったところ、大きく上昇した5日間を除くと、得られた利益は半減していたということです。この「稲妻が輝く瞬間」は、金融不安があって株価が暴落している直後にあることも多く、市場から退場しないことが大切です。売り買いの回数が多ければその分、税金や手数料も発生しますので、長期目線で気持ちを大きく構えて、短期での価格の推移にまどわされないようにしましょう。