はじめに

遺言信託のサービス料金はかなり高額

例えば、ある都市銀行の遺言信託サービスの場合、まず初期費用で21万6,000円(税込)、そして遺言の執行完了時に相続財産額に応じた執行手数料が発生します(下図参照)。

某信託銀行の遺言信託サービス手数料(消費税8%込み)

A. 当社とご契約中の預金・信託商品、窓口販売による投資信託・国債・保険商品等に対して0.32%
B. 上記A以外の財産に対して5000万円以下の部分2.16%
5000万円超1億円以下の部分1.62%
1億円超2億円以下の部分1.08%
2億円超3億円以下の部分0.86%
3億円超5億円以下の部分0.65%
5億円超10億円以下の部分0.43%
10億円超の部分0.32%

この他に、毎年の遺言書の保管費用(数千円程度)、書き換えがある場合は別途手数料(数万円程度)が発生します。これだけの費用を用いるのなら、相続が得意で腕のよいコンサルタントや士業を雇って、通常の公正証書遺言書を作成してもらったり、相続対策や税金対策などに相談に乗って貰った方がはるかによい経済効果になる場合も多いでしょう。

遺言書の内容には作成の要件以外にも注意が必要

遺言書作成全般に当てはまる注意点ですが、遺言書の作成要件以外にも遺言内容に対しても気を配っておかないと思わぬ落とし穴にはまってしまう場合があります。

法律的に正しい遺言書を作成しても、その内容に不備がある場合は結局争い事やトラブルの元となります。特に信託銀行の提供するサービスの場合、依頼人(被相続人)の「思いを形にする」という部分へのこだわりが強いだけに、却って問題のある内容の遺言を作成してしまうことがないわけではありません。

例えば、遺留分を侵害する遺言(※)や、納税資金の準備を全く考えない分割などがそれにあたります。

※ 遺言では自由に遺産を誰に残すか決められますが、相続で遺産をもらう人は、法定相続割合の半分は「遺留分(いりゅうぶん)」という遺産をもらえる権利があり、他の相続人に請求することができます

相続争いという観点でいうと、遺留分まで侵害する遺言は、いくら遺言があるといっても侵害された人がさすがに不快感を抱く場合が多いでしょう。遺留分侵害請求をされ、争いになる可能性もあります。

また、納税資金という観点でいえば、ある相続人には不動産のみを贈るという場合、不動産の相続税評価額や課税税率にもよっては納税資金のキャッシュの確保が難しい場合があります。

例えば5億円分の相続税評価額の不動産を贈った場合など、ざっくりで2億円前後の納税が必要になってしまうためです。5億円の評価の不動産を遺産でもらっても、2億円の「現金」がないと、納税資金の確保のために借り入れの必要が生じたり、急いで不動産を売却をしなければならなくなるかもしれません。

※本来であれば小規模宅地の特例の活用などによって、相続税額を下げる方法があったにもかかわらず、適用要件から外れ、適用を受けられない遺言になっていたため、遺言をそのまま執行したのでは相続税の負担が増えてしまうような場合もあります。

このようなことのないよう、故人本人の想い、相続後の家族の気持ちと経済生活両方に配慮を行った遺言書の作成が必要になります。ただ、遺言信託サービスがこのような遺言内容の法律的、あるいはタックスプランニング・フィナンシャルプランニング的な側面にまで責任を持ってサービス提供を行ってくれるとは限りません。金融機関の方針や担当者の力量次第という部分が大きいので、サービスの利用を申し込む前によく調べて検討したり、複数の専門家の意見を聞いたりした方がよいでしょう。

遺言信託の活用や、遺言書の作成にはこのような点にも気を配って取り組んでいただければと思います。

(この記事は相続tokyoからの転載です)

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