はじめに
テーパリング議論は「秋以降」
また現在、アメリカでは人出不足になっていて賃金も上昇しています。しかしこれは、失業保険の上乗せ給付が9月まで延長されているために、無理して賃金の安い仕事に就くより失業保険をもらったほうが収入がよいため、労働市場に人が戻らないからです。
4月の雇用統計の非農業部門の雇用者数が100万人増の予想だったところ26万人増にとどまったのも、こういう背景からです。つまり、これは米国の政策による一種の異常な状態が創り出したインフレの構図なのです。
しかし、この先、米国でワクチン接種が進み、ますます経済が正常化すれば、もう雇用保険の延長はありません。失業していた人は低賃金の仕事にも就かなければ収入がなくなるため労働市場に戻ってきます。そうなれば平均賃金は低下圧力がかかるでしょう。
工場など製造業にも人出が戻り、供給不足も解消し、物価全般が低下すると思われます。足元で懸念されているインフレが持続的なものではないということが秋以降にはっきりしてくれば、FRBはテーパリングを急ぐ必要はありません。
つまりFRBのテーパリング議論は秋以降、かなり正常に近づくころの物価を見て本格的な議論がなされるものと考えます。その結果、実際にテーパリングが開始される時期については、市場のコンセンサスよりも後になる可能性が高いと思われます。
<文:チーフ・ストラテジスト 広木隆>