はじめに
投資信託に複利運用を当てはめることの問題点
実際の投資信託の基準価額は、皆さんもご存じのように一直線には増えません。マーケットの動向によって、基準価額は値上がりすることもあれば、値下がりすることもあります。
同じ年平均5%のリターンというのであれば、むしろ以下の方が現実的でしょう。
1年目=10%
2年目=▲20%
3年目=30%
4年目=5%
5年目=▲10%
6年目=20%
7年目=25%
8年目=▲10%
9年目=5%
10年目=▲5%
各年のリターンを平均すると年5%になります。収益が生じた年は、それを分配せずにそのまま翌年の運用に回します。実質的に複利に近い運用を行うわけですが、この結果、10年目に100万円がいくらになるのかというと、145万5,809円なのです。
同じ年平均5%のリターンでも、一直線に増えていく場合と、価格が上下した場合とでは、このような違いが生じてくるのです。どうしてこのような違いが生じてくるのでしょうか。
第一の問題点は、リターンがマイナスの翌年は、複利運用効果が利かないことです。たとえば上記の計算で考えると、1年目のリターンは10%なので、投資元本が100万円であれば、1年目には110万円になり、それを翌年の運用に回します。
ところが、2年目にはマイナス20%ですから、110万円が88万円まで目減りすることになります。1年目までの運用で得られた10万円の収益も含めて損失が及んでしまうことになります。
これがもし単利運用であれば、1年目に得られた10万円の収益を除外できるので、同じ20%のマイナスでも100万円に対する損失だけで済みます。結果、10万円の収益をそのまま預貯金で運用しておけば、収益に対しては損失が及ばないので、2年目の元利合計額は90万円になります。
つまり第二の問題点として、複利運用で損失が生じると、それまで得られた収益に対しても損失が及ぶ形になるため、複利運用することが、むしろあだになるケースがあるのです。
そして第三の問題は、大きな損失を被った場合、それを回復するためにはより大きなリターンを必要とすることです。たとえば100万円が50万円になったとします。ちょっと極端なケースですが、この場合、損失率は▲50%です。
では、50万円が100万円に回復するためにはどれだけ値上がりすれば良いのかというと、100%のリターンが必要になります。リーマンショック級のショックが起ると50%くらいのマイナスは簡単に生じますが、100%戻すのは大変なことです。これは株価でも為替レートでも何でも良いのですが、下げるのは一瞬ですが、上がるにはかなりの時間を要します。つまり一度、大きな損失を被ると、ポートフォリオが損失を回復させるには、より長い時間を必要とするのです。