はじめに

「子供が生まれたので、そろそろ家を買いたい」「このまま家賃を払い続けるよりマンション購入を」――。“いざ、マイホームを”と思っても、はじめての物件選びは多くの人にとってわからないことだらけ。

住みたい家を見つけたとしても、本当に長く住むことができるのか? 今が買い時なのか? 資産価値が大きく下落してしまわないか? 本来は幸せなはずの新居購入が、「不安な気持ちでいっぱいになった」という声も。

そんな住宅選びの不安解消に役立つ画期的なサービスが登場したとの噂を聞き、『マンションレビュー』を運営するグルーヴ・アールを訪ねました。

同社が今年6月から提供をはじめたのはマンションの「適正価格」がひと目で診断できるコンテンツ。代表取締役社長・川島直也さんと専務取締役・仲根臣之介さんに、プロの目から見た“後悔しない”住まい選びのコツを教えてもらいました。


マイホーム探しが難しい理由

――「いざ、家を買いたい」と決めても、なにから始めればよいのか困ってしまいます。マイホーム購入を決めた方がぶつかりやすい壁には、どんなものがあるのでしょうか?

川島直也氏(以下、川島): 住宅購入は多くの方にとって一生に一度の経験で、はじめてのことの連続です。そのため、最初は「何がわからないのかも、わからない」といった状態の方が多いようです。物件選びに悩まれる以前に、「本当に今、家を買ってよいのだろうか」と迷う方も少なくありませんよね。

実際に買うと決めてからも、「予算はこれでいいのか」「もっと良い物件があるのでは?」「買い時は今か?」など、疑問を挙げるときりがないのですが、最も悩ましいのは「この価格は適正なのか?」という問題です。

――たしかに不動産は価格が大きく、「知らないうちに高く買ってしまって損をするのでは?」という、漠然とした不安がありますね。

川島: たとえば普段買い慣れている500mlのペットボトルの水であれば、100円前後が相場であると私たちは皆、知っています。もし1本1,000円で売っていると「あれ? 高いな」と思いますよね。

でも、これが家になると一般の方にはさっぱり見当がつきません。そのため価格に対する納得感を得ることができず、なんとなくモヤモヤした気持ちのまま、人生で一番高い買い物を決断することになってしまうのです。

情報の非対称性に課題感

仲根臣之介氏(以下、仲根): 私と川島は、前職で共に不動産業務に携わっていました。物件の査定や、住宅購入者の仲介やサポートをするなかで、何百人という方のリアルな声を聞く機会がありました。

当時のお客様からは、「物件は気に入ったけれど、価格が高いのか・安いのか、わからなくて決断できない」という相談を受けることも多く、不動産業界が抱える「情報の非対称性」の問題に対して課題意識を抱えていました。

プロであれば常に相場を見ていますし、レインズ(Real Estate Information Network System/不動産流通標準情報システムの略称)という不動産会社のみが閲覧できるデータベースにもアクセスできるため「この価格が適正なのか」を瞬時に判断できますが、一般の方には相場を知るための手段がほとんどありません。

住宅は、一生のなかで最も大きな買い物のひとつであるのにも関わらず、決断のための材料があまりにも少ないのです。

川島: 実際に相場よりも高く買ってしまって、いざ売却しようとしたら住宅ローンの残債よりも低い価格でしか売れないというケースもあります。残債を完済しないと、銀行が抵当権を外さない。つまり、売ることができないため、手元に資金がない方は、売るに売れず、身動きが取れなくなってしまう。

もし適正な価格で買うことができていれば、こうした事態が必ず防げた、というわけではありませんが、このようなケースは減らせるのではないかと思われます。

マンションの価格はどう決まる?

――おっしゃる通り、「5,000万円の新築マンション」と聞いても、常に相場を追っていない私たちには高いのか、安いのかピンときません。そもそもマンションの価格はどのように決まるのですか?

川島: 新築マンションの価格は、土地取得費と建物建築費の原価に、広告宣伝や営業マンの人件費などの販売管理費、資金調達の際の金利にディベロッパーの利益が上乗せされ構成されています。原価率が8割前後、販管費が1割前後、不動産会社の利益率は1割前後というケースが多いと言われています。

ここ数年の新築マンションの価格高騰は、ディベロッパーが利益を増やしたというよりは、建材費と職人さんの人件費が上がったことによる建築費の高騰に起因する部分が大きいですね。また、利益の幅は各ディベロッパーによって異なります。基本的には、大手ディベロッパーの方が、ブランド力があるため、利益率が高い商売ができます。

値付けに関しては、基本的には一番高く売れて、かつ売れ残らないであろう、ギリギリのところをディベロッパーは目指すものですが、たとえば「決算前に売り切りたいから値引きする」なんてこともあります。ここで買えるとお得に買えたりしますね。

仲根: 中古マンションの場合は、居住用の物件であれば、周辺の実際の取引事例を基に、値付けがされます(取引事例比較法)。たとえば、隣のマンションが築年数が10年古くて、5,000万円で成約したのであれば、10年新しい分、価値が高いので、こちらのマンションは5,500万円といった価格の付け方です。

もちろん、こんなに単純に価格が決まるわけではなく、「築年」「駅からの距離」「管理状況」「部屋の中の状況」「リフォーム有無」「眺望」等、さまざまな要素を数値化して査定します。

このように、仲介する不動産会社は周辺相場を考慮して適正価格を査定しますが、これは結局、値付けのためのアドバイスにしか過ぎません。売り出し価格を決めるのはあくまで売主なので、相場をはるかに上回る高値で市場に売りに出されることもあります。こうした価格で買ってしまうのを防ぐためには、相場観を持つことが必要です。

川島: 都心の場合は実際に住まいを求める人の実需に加え、近年は海外の富裕層も含めた投資家の不動産投資需要も大きく、価格は上昇傾向にあります。

これに対し、郊外のマンションや都心でも一戸建ては投資家があまり購入しないため、不動産投資需要による価格上昇は見られません。こうした投資の需要は、景気にも大きく左右されます。最近では、実需よりも、この投資需要が相場に与える影響の方が大きくなっていると感じます。

新築と中古を同時に検討する方も多いため、同じエリアの新築マンションの価格が高騰していれば、中古マンションもそれに引っ張られ、値上がりしていく傾向があります。また、ディベロッパーの新築マンションの値付けも中古マンションの相場も参考にして決められます。

一戸建てとマンションの価格差についてもお話しすると、一戸建ては鉄筋コンクリート造のマンションに比べて建築費高騰の影響が少なく、不動産投資需要も基本的にはないため、マンション価格が高騰しているここ数年も価格はあまり上昇しておらず、現在は、相対的にマンションよりも一戸建ての方が割安な価格水準にあるといえます。

――なるほど。さまざまな要因や思惑によって価格が決まっているのですね。やはり素人が判断するのはとても難しそうです……。

川島: ただし、不動産は「一点モノ」なので、相場とかけ離れた価格で取引されることもありますが、それ自体はけっして悪いことではありません。

相場より安く買えればラッキーですが、もし個人的に気に入った物件であれば、多少上乗せしてでも手に入れたいですよね。要は、ここに「割高と理解している上で買う」という“納得感”があればいいと思うんです。

ブラックボックスとなりがちな「不動産価格」の情報をわかりやすく伝えることで、知識がない一般の方々にも、しっかりと納得したうえで後悔のない住まい選びをしてもらいたい――。そんな願いを込めて2010年にオープンしたのが不動産・住宅情報サイト「マンションレビュー」です。