はじめに
リスクはFRBのテーパリングのペース
結果、今回のFRBのテーパリングによって新興国通貨が大きなダメージを受けるという展開をあまり想定していません。もちろん、通貨によって強弱まちまちとなるのは自然であり、特に資源国通貨はコロナ禍から世界経済が回復する中、引き続き資源高の恩恵を受けやすいとみられます。
一方で、FRBが想定よりも速いペースでテーパリングを完了し、利上げの準備を始めることがリスクとなります。市場では、2022年後半にかけてテーパリングが続き、利上げは同年末~23年以降という見方が多いですが、こうしたシナリオが崩れる可能性に要注意です。
FRBがゆとりを持った金融緩和政策の手仕舞いを行う上で、鍵を握るのはやはり物価でしょう。足許で米国の物価上昇はやや鈍化の兆しが窺えるものの、デルタ変異株蔓延というノイズがあり、多少割り引いて見る必要があります。
供給制約や人手不足による賃金上昇圧力は早期に解消される公算が小さく、来年も物価上昇圧力が続くとみるのが妥当です。来年は米国で中間選挙が予定されていますが、インフレがバイデン政権のアキレス腱となる恐れがあります。政権側からFRBに対応を求める圧力が強まっても不思議ではないでしょう。現状、FRBの急激なタカ派転換はメインシナリオではありませんが、警戒は必要でしょう。
最後にドル円相場にも触れておきたいとおもいます。依然、108円~110円台を中心としたレンジを形成していますが、現状ではレンジブレイクの決定打が見当たりません。ドルの上値を押さえているのは米長期金利の低位安定です。
この要因は一つに絞ることができませんが、このところはデルタ変異株が影響しているのではないでしょうか。こうした見解が正しければ、そう遠くない将来に感染拡大が一段落し、ドルの上値を試すタイミングが訪れてもおかしくはありません。
なお、テーパリング以降は、資産購入の縮小ペースが緩やかであれば、漸進的な円安ドル高を予想します。仮に、ハイペースとなった場合は、リスクオフ環境でドルも円も買われやすい中、やや円高に振れてもおかしくはないでしょう。
<文:シニア為替ストラテジスト 石月幸雄>