はじめに

インドネシア通貨ルピアは米テーパリングを警戒

インドネシアにおいて、ポストコロナにおける懸念材料の一つは、年内にもアナウンスが予想される米国のテーパリングの影響です。2013年のテーパー・タントラム(量的金融緩和の縮小に対する金融市場の混乱)では、インドネシアから資本が流出し、ルピアは対ドルで25%下落しました。

特にルピアは、経常赤字や高インフレなど経済基盤が弱い「フラジャイル・ファイブ(脆弱な5通貨)」の一つとして投資家に敬遠されていたこともあり、下落幅が大きかったのです。

ルピア相場は2020年3月に一時1ドル16,625ルピアと史上最安値を更新したものの、6月には急落前の水準に戻り底堅く推移しています。足元、PPKMの延長が繰り返されているものの、この傾向に変わりはありません。そのような中で注視したいのが財政赤字です。

インドネシアの財政は恒常的に赤字が続いています。ただ、国家財政法により財政赤字のGDP比率は3%以下とする財政規律が順守されてきました。しかし昨年、新型コロナ対策の一環で3年間の期限つきで財政規律が緩和されました。これにより、2020年は財政赤字のGDP比率が6.1%まで拡大。さらに、9月末に国会で可決された2022年度国家予算案を見ると、2021年は5.7%、2022年は4.85%となる見通しです。

おそらく2023年には従来の3%以下まで落としていく算段であると思われますが、コロナ禍で膨れ上がった臨時歳出の利払いが重石となるため、そう簡単ではないでしょう。

今回の時限措置が公表された際、米格付け機関のスタンダード&プアーズがインドネシア長期国債の見通しを「安定的」から「弱含み」に引き下げたように、財政悪化は国家の信用格付けに影響を及ぼすため注意が必要です。

依然としてインドネシアは経常赤字と財政赤字の「双子の赤字」の状態にある上に、企業も多くのドル建て債務を抱えています。また、対外リスクに脆弱なイメージも根強いため、テーパリングの詳細が明らかになったとき、ルピアへの影響は避けられないでしょう。ポストコロナ下でも、政府の難しい舵取りが続きそうです。

<文:市場情報部 北野ちぐさ>

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