はじめに
リスクを避けるためには遺言書が有効
千里さんは父親の相続手続きを進めるにあたり、生まれてから会ったこともない母親違いのきょうだいと遺産分割協議をしなければ何も進まないということになったのです。
どこに住んでいるのか、どんな人なのかもわからない。何から手を付けてよいかわからなくなり、あとの手続きは専門家に任せることにしました。専門家に任せたことで、相手方の連絡先が分かり、遺産分割協議を行うことができ相続手続きを終えることができました。今回のケースはスムーズに事が運びましたが、いつもうまくいくとは限りません。
千里さんの父親が千里さんのために生前にできたことは、何かあったのでしょうか。今回のような相続時に遺産分割協議をすることを避けるために遺言書を書くということが考えられます。例えば遺言書の内容が「財産を全部千里さんへ相続させる」という内容であったとすると、父親に相続人が数名存在したとしても、その遺言書をもって千里さんが金融機関で単独で手続きできるということになるからです。
子どもの立場でできることは?
では、子どもの立場として父親の生前に何かできることはなかったのでしょうか。
生前対策の一つとして相続人を正しく知るという意味で、父親に対して戸籍の取得を促し生前に相続関係を知っておくという方法はあります。ただ、父親の意向を確認せず子ども主導で父親の相続対策をすることはできません。もしかしたら、数十年前に認知したことが、相続発生時に相続人として千里さんと遺産分割協議をしなければならないという状態になると思っていなかったかもしれません。だからこそ生前に親子でコミュニケーションを取り、家族の歴史や想いを聴くことが大事になるのです。
相続は誰にでも起こることです。相続の対策を何もしない場合の将来起こりうるリスクを把握することは、財産の有無にかかわらず必要なことです。どのくらい相続人の負担を減らすことができるかは、生前にどれだけの準備ができるか、一人一人の行動にかかっているのです。
まずは、確認することから始めましょう。
行政書士:藤井利江子