はじめに

お金を正しく理解して、自ら未来を切り開く女性を応援するウェブマガジン『MaRiche』が、この夏創刊されました。8月3日には、創刊を記念したトークイベントを渋谷で開催。第一部では、今もっともパワフルな著述家、ブロデューサーの湯山玲子さんが、「お金を識らないと損をする! これからの女性の生き方」をテーマに熱弁。『女装する女』(新潮社)、『四十路越え!』(角川書店)などの著書で、生きにくさを抱えた女性たちから圧倒的な支持を得る湯山さんが語る「女のお金の哲学」とは?


生きづらい?日本女性にかけられる呪縛

湯山:私、『四十路越え』という本を出していまして。これは元々30代前半の編集者の発問だったんですけど、このところ人生がしんどすぎる、と。たしかに、女性誌をみると30代女性のお悩み相談は定番です。女性の場合、仕事のキャリアと一緒に結婚・出産、特に出産ですよね、リミットが入ってきますので。そこで考えること、考えること。

それまで大学までずっとみんな一緒のお友達っていう“女子会チーム”が、段々30歳超えたあたりからですね、みんな一人一人違ってきちゃうことも、実は人間関係で体験するひとつの試練かな。みんないっしょ、だったはずが、そうじゃない。昨日までの友達が今日の敵みたいな、結婚してるかしてないかとかね(笑)。

その反面男性の30代は、仕事に向き合っていれば自分の生き方については棚上げしちゃって、リストラや左遷のリアルにぶち当たる50代くらいで大変なことになってるっていう話になってくると、

日本の女にかけられている大きい罠は、「自分の欲望を持つな」なんです。欲望を持つことは、わがままと同義であり、他人を蹴落とす自分勝手、というイメージ連鎖を呼び込んでしまう。日本の男社会は女のワガママが大嫌い。

「そんなことない」と、みなさんの周りの男性は口では応援してくれるかもしれませんが、信用しちゃダメ。女が芯を持って欲望をたぎらせることは、本音ではあまり歓迎されていない。

女に求められているのは、いい妻・いい母・いい介護要員。そういう人さまのために滅私奉公する存在であることです。そういう女は悪口を言われないし、人からエールを送られる。またも「そんなことない」という反論がきそうですが、この「いい」を「悪い」と言い換えてイメージしてみれば、はっきりする。

いい妻でも母でもなく、介護も人任せ、でも自分の欲望と信念に向かって生きている女は悪口の対象でしょう。もし、そういう欲望を貫徹する女がいたとしても、そういう自分の生き方に「引け目」を感じなければいけない、という。それは伝統的に日本にある美学だし、それ自体は悪いとは思いません。けれど、「そういう空気」になっちゃってることが問題なんですよ。

日本を支配する空気のひとつに同調圧力というものがあります。これ「みんないっしょ」が安心でそうでないと何かとバッシングを受ける、というもの。女子会で結婚の話題になると「私も早く結婚しなきゃ」とか焦りませんか? 

でもそれは本当に自分の欲望でしょうか。みんながやってるから自分もやらないとカッコ悪いんじゃないか?って、「世間が推奨する欲望」を信じさせられているだけではないでしょうか。集団で利益を上げる空気がカッチリつくられてしまっている日本のサラリーマン社会では、その集団内の「人並み」であることがまずは最低条件でその同調圧力はやっぱりすごいですよね。

もうひとつの空気、いや、空気というかこのところ目立ってきた人々の気質として、「承認欲求の増大」というものがあります。承認、つまり人から褒められ、認められるということは人間の重大な欲求のひとつですが、そこのところだけを行動のエンジンにするという人たちが目立っている。

言うまでもありませんが、人から評価されることだけをエネルギーにするのは危険です。なぜならそれは、自分の評価を他人に預けてしまっているということだから。それだけを信用していると自分自身を簡単に見失い、ヒドいことになりますよ。他人から今は評価されなくとも、続けて行くことで将来大輪の花が開く、などという健康な「希望」も持ち得なくなるのですから。

「自分の本当の欲望」で火をつけたエンジンは強力ですが、自分の欲望ではない、他人からの評価や評判、人並みでいたいなどという借り物のエンジンでは、大気圏に突入できない。自分の人生にお金をマネージしていくには「自分の本当の欲望」を見つけることが重要です。

切り詰めて切り詰めて、貯めたお金で何するの?

日経新聞の「NIKKEIプラス1」で人生相談をやっているのですが、お金に関する投稿が多いんです。たとえば、「年金生活をしている夫婦です。海外旅行に行きたいけど、お金がかかるし、そんなお金があったら何かあった時のために貯めておいて、孫におカネを残した方がいいんじゃないか」的な質問は本当に多いのです。

最晩年は今までの自分にご褒美を与えるようなお金の使い方をした方がいいのではないか、とも思うのですが、70代だからこそ将来の心配をしてしまうというのが、「不安」に縛られる日本人の心証なのでしょう。

日本人はすごく貯金しますよね。「不安だから」というモチベーションでお金を貯めようとするのはすごく自然な流れです。でも、リアルに考えて、節約して節約して、10年後、20年後に残ったのが節約術だけの人生って、どうなんでしょう? 

結局、お金を貯めた先の「自分の本当の欲望」が何なのかわかっていないのにお金を貯めている、本末転倒がそこにはある。おカネは自分の人生の「こうしたい」を叶えるリソースなのに、「こうしたい」がなくて、貯めてから「こうしたい」を見つける。そういう場合の「こうしたい」は、往々にして、みんないっしょ、の消費になってしまい、実はその人なりの人生の充実とは関係ないことに使われてしまうという図式です。

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