はじめに

自分を客観的に監視する「メタ認知」

理解力に自信がある人も、それが「理解したつもり」ではないかの注意が必要です。たとえば、駅から目的地のビルまで行く間で、あなたは迷ってしまいました。まわりに人はいません。おそらくあなたは、スマートフォンを使って地図アプリを見るでしょう。現在地と目的地を確かめるためです。地図を見ながら進むことで、あなたはロスなく目的地へ到着することができます。自分の視点を持ち上げて俯瞰する力を「メタ認知」と言います。メタ認知とは、狭義には、自分の思考や行動を客観視する能力のことですが、広義には、自分を含むさまざまな対象を広い視野で見渡す力のこと。

あなたの言動を監視するコントロールセンターのようなものです。囲碁や将棋で言うところの「大局観」も「鳥の目」と言えます。「大局観」とは、広い視野で勝負全体を見て、形成の有利・不利や、最善の打ち手を見極める力のこと。その力が高いほど、勝負に勝つ確率が高まるのです。メタ認知を高めることは、「鳥の目」を手に入れることにほかなりません。空を飛ぶ鳥はいつでも街全体を見渡しています。どこに何があるのか。A地点とB地点の距離はどれくらいか。地上では手に入れがたい情報を把握しています。

一方、人間の現実は「虫の目」です。その視線は地上に張りついています。迷ったら最後、現在地や目的地を見失ってしまうこともあります。「虫の目」のわたしたちが「鳥の目」を手にするためには、以下の2ステップを踏む必要があります。

1.「鳥の目」の世界があることを意識する
2. 想像力を駆使して「鳥の目」になる

想像でいいので、目と心のドローンを上空に飛ばしてみるのです。上空から見たら、この状況はどう見えるだろうか? 相手からはどう見えるだろうか? ゴール地点からはどう見えるだろうか? 広い視野で世界を見渡すことによって、それぞれの位置関係や、その関係性、本来の目的、真意などが、初めてわかることもあります。

もっと言えば、「『よくわからない』という自分のことがわかっていること」もメタ認知の働きです。メタ認知力が高まると「本当にこの理解でいいのか?」「何かおかしいぞ」「もっと深い意味がありそうだ」――のように気づきやすくなります。とはいえ、なかなか視点を自分から離せない、という人もいるでしょう。そういう人は、第三者からフィードバックを受けることをおすすめします。フィードバックとは「相手の言動に対して評価や改善点を伝えること」です。

たとえば、営業先で商品説明をした際、自分では「よくできた」と思ったとしましょう。しかし、同席していた同僚から「○○の説明がわかりにくかった」とフィードバックを受けることで、自分の「よくできた」という認識(理解)が誤りだったことに気づくことができます。すると、次回以降の軌道修正が可能となります。このように第三者の目を、自分の「鳥の目」として活用するのです。

「理解したつもり」と同じように「自分はメタ認知力が高いはず(=全体やまわりがよく見えている)」と思っている人は、それ以上に視座が高まっていきません。メタ認知力を高めるうえでは、「自分はメタ認知力が低いのではないか?」と疑っているくらいがちょうどいいサジ加減です。

山口拓朗(やまぐちたくろう)

伝える力【話す・書く】研究所所長。山口拓朗ライティングサロン主宰。出版社で編集者・記者を務めたのち、2002年に独立。26年間で3600件以上の取材・執筆歴を誇る。現在は執筆活動に加え、講演や研修を通じて、「1を聞いて10を知る理解力の育て方」「好意と信頼を獲得する伝え方の技術」「伝わる文章の書き方」などの実践的ノウハウを提供。著書は『9割捨てて10倍伝わる「要約力」』『何を書けばいいかわからない人のための「うまく」「はやく」書ける文章術』(共に日本実業出版社)、『伝わる文章が「速く」「思い通り」に書ける 87の法則』(明日香出版社)ほか25冊以上。文章術、伝え方のノウハウ書籍が多いが、本書で伝えている「情報を的確に理解するための技術」など、本質をとらえたノウハウも高く評価されている。

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(この記事は日本実業出版社からの転載です)

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