はじめに

世界のインフレと日本のインフレの違い

しかし、やはり決定的に大きいのは、現在世界中で大問題になっているインフレが日本では前向きに捉えることができるという点ではないかと思うのです。

世界ではインフレ率の上昇に対して中央銀行は金融引き締めを強化していますが、日本のインフレは欧米などに比べれば、ずっとマイルドなインフレです。6月24日(金)に発表された5月の消費者物価は前年同月比2.5%上昇しました。変動の大きい生鮮食品を除くと前年同月比2.1%です。これは4月と同じで物価上昇率が加速しているわけでもありません。

日銀が目指していた2%を超えましたが、中身は資源高の影響が大半。エネルギーも除くと0.8%にとどまります。米国は食品・エネルギーを除いても6%を超える高インフレですから、いかに日本のインフレが欧米対比で低水準であるかがわかるでしょう。

日本経済は米欧に比べて回復が遅く、国内総生産(GDP)は1~3月期時点で新型コロナウイルス禍以前の水準に届いていません。潜在的な供給力に対する需要不足の状態も続いています。それゆえ、金融緩和の持続が可能で金利は上がらず、通貨安が進んでいます。円安はメリット・デメリット両面あるものの、トータルではグローバル事業を展開する企業が多い日本の上場企業の業績にとって追い風になります。冒頭で日本はバリュエーション調整をする必要がないと述べましたが、それについても元をただせば日本はインフレがマイルドだから金融引き締めをする必要がないので金利が上がらない、ということが大きな背景としてあります。

日本だけがインフレをポジティブに捉えられる

インフレで重要なのは、物価上昇そのものより、インフレというものの受け止め方でしょう。日本ではインフレ上昇率は低いと言いましたが、それでもエネルギー価格の上昇に加え、食料品など値上げラッシュとも言える状況にあります。

こうした状況を受けて日銀の黒田総裁は、「企業の価格設定スタンスが積極化している中で、日本の家計の値上げ許容度も高まってきているのは、持続的な物価上昇の実現を目指す観点からは重要な変化だ」などと指摘しました。ところがこの発言に対して一部で批判が高まり、「家計が自主的に値上げを受け入れているという趣旨ではなかった。誤解を招く表現で申し訳ない」と異例の謝罪に追い込まれました。私は黒田総裁の発言はまったく正しいものであり、謝罪などする必要はなかったと思うのですが。

ともかく、この日本でも物価が上がり始めました。積極的ではないにせよ消費者が物価上昇を受け入れ、企業が原材料コストの上昇を価格転嫁して利益を確保できれば賃上げに回す余裕も生まれます。「人への投資」は岸田政権の成長戦略の柱です。企業も人的資本の重要性に目を向け始めています。これで賃金も上がれば、今度こそ日本はデフレを脱却できるでしょう。

この十数年、日本社会と日本経済の低迷の主たる要因はデフレマインドを完全に払しょくできなかったことにあります。それを今度こそ断ち切ることができるなら、日本経済も日本企業の業績も、そして日本の株式市場にとって大きなジャンピングボードになるはずです。


インフレをこのようにポジティブな文脈で捉えられるのは、世界の中で日本だけです。それは日本が長年、デフレに苦しんできたからこそ、なのです。そして株式市場にとってこのインフレがポジティブな意味を持つ重要な材料があります。政府の資産所得倍増プランです。これについてはまた次回、お話します。

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