はじめに
今回は英ポンドです。通貨には通称がある場合があります。英ポンドの場合は、スターリング・ポンドとの呼び方もあるため、最も一般的な通称は「スターリング」でしょう。この「スターリング」、英ポンドは、米ドルの前の基軸通貨でした。英国経済の衰退とともに、英ポンドから米ドルへの基軸通貨交代となったわけです。
そんな英ポンドは、今では主要な通貨の中では、相対的にボラティリティの高い、つまり値動きが活発な通貨として知られているようです。よく英ポンドについて、激しい値動きから一回の取引でも大損することもあるため、「じゃじゃ馬通貨や殺人通貨とも呼ばれる」といった解説を見ることもあります。その一方で、活発な値動きはトレード・チャンスと見ることもできます。このため、米ドル、日本円、ユーロなどの主要通貨の小動きが長く続く局面などでは、英ポンドの高いボラティリティが期待され、取引が増える傾向もあります。
英ポンドを象徴する2つの大相場
ところで、そんな「よく動く英ポンド」にとって、象徴的な出来事は2016年の「Brexitショック」でしょう。2016年に行われた英国の国民投票の結果、EUからの離脱がまさかの賛成多数となった事態は、「英国(ブリテン)のEU離脱(exit)」といった意味でBrexitと呼ばれ、世界の金融市場を大いに動揺させることとなった出来事でした。
ちなみに、この国民投票によるEU離脱賛成多数といった「まさか」の事態となったのは2016年6月24日のことでしたが、この日106円程度で取引が始まった米ドル/円はあれよあれよという間に100円割れへ暴落となったのです。
ショッキングな出来事ではありましたが、それで英ポンドが暴落しただけならまだしも、米ドル/円まで暴落するということになり、さらに世界的な株暴落ももたらすことになったわけですから、いかに金融市場全体を大きく動揺させる出来事だったがよくお分かりいただけるのではないでしょうか。
米ドル/円も暴落させた「Brexitショック」ですから、当の英ポンドの下落はより激しいものとなりました。英ポンド/円は、「Brexitショック」が起こる前年の2015年には200円近くまで上昇していましたが、この「ショック」を受けて2016年には120円台まで下落しました。最大下落率は4割近くにも上ったわけです。
そして、もう一つの英ポンドを代表する大相場は、1992年の暴落相場ではないでしょうか。これは、金融市場のリードオフマンとして知られるヘッジファンドの存在を世界的に有名にしたエピソードでもありました。
著名投資家、G.ソロス氏などヘッジファンドが英ポンド売りに動き、一方で英国の中央銀行であるBOE、イングランド銀行が英ポンド防衛の為替介入で買いに回りました。そんな「ヘッジファンドの売り vs. 中央銀行の買い」といった対決は、結局英ポンドの暴落により、ソロス氏などヘッジファンドが巨額の利益を上げる結果となり、「中央銀行の為替介入に勝った」として、ヘッジファンドを「プロ中のプロ」といった具合に一躍有名にするところとなりました。
以上ご紹介した2016年の「Brexitショック」、そして1992年の英ポンド暴落は、為替相場における歴史的な大相場でもありますが、主要通貨の中では「相対的に高いボラティリティ」といった英ポンドの特徴を理解する上でも分かりやすい出来事だったと感じ、紹介した次第です。