はじめに
読者の皆さんから頂いた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナー(FP)が答えるFPの相談シリーズ。今回は読者の家計の悩みについて、プロのFPとして活躍する野瀬大樹(のせ・ひろき)氏がお答えします。
昨年末、第一子を出産しました。今から少しずつ教育資金の準備をしたいと考えています。具体的には、大学進学費用として500万円程度を目安に貯めたいのですが、どのように貯めたらよいでしょうか?
出産祝い金や育児給付金、児童手当などを合わせると100万円程度あり、銀行の普通口座に入っています。加えて、月払いの学資保険や、インデックスタイプの投資信託を毎月積み立てることを検討していますが、あれこれ考えすぎてまだアクションを起こせていません。よい方法を教えていただけませんでしょうか?
(30代前半、既婚・子どもひとり、女性)
野瀬:「学歴はカネで買える」というと何やら誤ったメッセージを送るようですが、これは純然たる事実です。別に裏口入学ができるというわけではなく、教育に投資した金額にある程度比例して子どもの学歴が高くなるのは、「親の平均年収が一番高い大学は東京大学(医大除く)」という事実からも垣間見えます。
そして、日本がまだまだ学歴社会であるのも純然たる事実。そうなるとできるかぎり子どもの教育にお金を遣ってやりたいのが親心です。
さて、今回はそんな教育費をどう貯めるかというのがテーマですが、この教育費の特徴は“数ある人生の出費の中で比較的計画が立てやすいものである”ということです。
教育費は貯蓄ペースをつくりやすい
車をいつ買うとか、家をいつ買うとか、いつ会社を辞めて独立するのかとか、子どもがいつ結婚するのか……などは、運やめぐりあわせによる要素が大きく、正確に「○○年に××万のお金がいる」という計画を立てにくいものです。
しかし教育費については、私立に行くか国公立に行くかにもよりますが、国公立大学の学費が増加傾向にある昨今、子どもが生まれたら「中学校」「高校」「大学」に入るタイミングに加え、金額も概ね予想がつきます。
タイミングと金額が分かるのだったら後は簡単。金額を必要なタイミングまでの年数で割り、毎年いくら貯金すればよいのか割り出すことができます。
学資保険の唯一のメリットは……
この教育費の特徴を生かして作られた商品が「学資保険」です。学資保険とは、毎月決まった金額を掛け金として支払い、そのかわり子どもが小学校や中学・高校・大学に入学するタイミングごとにまとまったお金の払い戻しを受けることができる保険です。
学資保険の特徴は「保険」であるため、もし掛け金を支払っている親に万が一不幸があったとしても、各タイミングでのお金の払い戻しが保証されている点です。この「保証」という点においては、先ほどの「貯金」よりも強みがあると言えます。こうすることで残されたお子さんが安心して学校に通うことができるという側面があります。
しかしこの学資保険、さまざまな商品があるのですが「払込みの総額≧払い戻しの総額」になる商品が多いのが事実です。
では、どうしてそんな“損”をするようなものに多くの人が申し込んでいるのかというと、それは学資保険が先ほど述べたように「保険」だからです。そういった保険の価値の分だけ貯金と比べて払い戻し金額が減るのです。
生命保険と重複しないように
ではそんな学資保険、どのように利用すればよいのでしょうか?
ポイントはやはり、学資保険の性質が保証を目的とした「保険」であるということです。私は常日頃から保険会社の方が言う「もしものときの保証」が意図しているのか意図していないのか、重複しているように思います。
生命保険の勧誘の方が言う「もしものときの保証」には、残された遺族の生活に加え、残されたお子さんの教育費の金額も含まれているのに、今度は学資保険の勧誘の方が言う「もしものときの保証」にもなぜかお子さんの教育費の金額が入っているのです。
言い換えるなら部屋にもうエアコンがついているのに、もう1台エアコンを勧められるようなもの。確かに猛暑の日は2台一気に稼働したほうが一気に涼しくなるなんてこともあるかもしれませんが、どう考えても無駄ですよね。
私は教育格差が起こらないためにも学資保険というものはとても意義があるものだと思います。ただし、先ほど言いましたように「必要な額」を割り出して、そこから逆算する形で「もしものときの保証」を決めることで無駄な学資保険を払わずに済むのではないでしょうか。
教育費の「費用対効果」も考える
さて、ここからはお金の話ではありません。私は「節約」を行うには、ただ単に「支出を減らす」だけでなく、「支出の効果を高める」ことも大切だと考えています。
たとえば家ならば、古い中古の物件でも自分好みのオシャレな家になるように家具を配置しこまめに掃除することで、家に対する満足度を高めることが可能になります。
服ならばユニクロなどのシンプルな服でも恰好よく見えるように普段から体型を維持するのです。
また高級レストランでなく、自宅でアットホームな食事でも満足できるように、料理の腕も磨き一緒に食べる家族との間も仲良くしておくのです。
では教育費の「効果」とは何でしょうか?
これは私自身の経験からの話なのですが、教育という費用においてその効果がたくさん出るためには、何よりも本人が「やる気」を出すことが大切です。
親がどれだけ尻を叩き大量のお金を投入しても、本人のやる気がゼロならばその効果もゼロになります。数式で書くなら「教育費×やる気=教育の成果」というところでしょうか?
そして子どもが小さいうちにやるべきことこそ、この「やる気」を養うことです。
「なぜ勉強が必要なのか?」「どんな仕事がしたいのか?」「そのためにはどんな勉強をすればいいのか?」そういったことを普段から子どもと情報共有しておくのです。
そうすることで親は子にとって「勉強しろ!」とうるさい存在ではなく、戦友になるのです。
私自身、若いころはあまり勉強しなかったせいで、英語がまったくできませんでした。おそらく中学生レベルの英語も危うかったと思います。しかし海外で仕事をすることになったらそうは言っていられません。そうするとかつてあれほど嫌だった英語も、市販の本を数冊買うだけでスラスラ勉強が進みます。
子どもが小さいうちからまとまったお金をドカンと貯めるのは難しいかもしれませんが、こうやって「支出の効果を高める準備」はスタートしておいたほうがよいでしょう。