はじめに
良いインフレと悪いインフレ
連日のように報道されるインフレについてニュースを見ていると、「良いインフレ」と「悪いインフレ」という表現を目にすることがあるかと思います。インフレに良いも悪いもあるのか、と疑問に思われた方もいるかもしれません。
景気が良くて日本経済が成長し、企業も増収増益。その結果、国民の賃金も上昇し、多くの国民が欲しいものを買う。需要がどんどん旺盛になり、供給が追い付かなくなると物価が上昇します。これがいわゆる「良いインフレ」です。
一方で、別に景気も企業の業績も良いわけではなく、国民の賃金も上がっていないのに、原油や天然ガスなどエネルギー価格が高騰することで物価が上昇するような状態は「悪いインフレ」といえます。今の日本は後者の状態にあるといえるでしょう。
悪いインフレの場合は水道光熱費や食料品など生活に欠かせない品目の価格が上昇するにも関わらず、賃金は上昇していないわけですから、家計はダメージを受けてしまいます。この場合は政府が減税をしたり、給付金を配ったりするなど、いわゆる財政政策によって家計の消費を下支えし続けないと本格的な不況に陥ることが懸念されます。
体感するインフレと経済指標の乖離
ここまで(1)物価と価格の違い、(2)日本の物価の趨勢はそれほど強い上昇傾向にはないこと、3良いインフレと悪いインフレの違いという3点について学んできました。とはいえ、日常生活を通じて体感するのは経済指標で表現されている前年同月比+2%程度の物価上昇ではなく、10%近いインフレかと思います。なぜ、体感するインフレと経済指標の間に大きな乖離が生じているのでしょうか。これは価格と物価の違いを理解すれば分かるでしょう。10%近く値上がりしている品目はいくつもあり、それらの価格上昇率を私たちは体感としてのインフレと認識しており、一方で消費者物価指数は前述の通り、あくまで「物価」の変動率を表しているから、ということになります。
また、逆のケースも存在します。たとえば、消費者物価指数の算出に用いる582品目を1つずつみていると、「この品目はこんなに価格が上昇していたか?」と思うこともあります。消費者物価指数の場合、価格調査する品目は決まっているため、たとえば牛乳という品目であっても、どのメーカーのどの容量の牛乳の価格を用いるかということが決められているため、調査対象ではない商品が値上がりしていなくても、調査対象の商品が値上がりすると、その品目は値上がりしたとみなされるのです。最近ではネットで一番安いものを選んで買ったり、メルカリなど中古品を買ったりする人も多く、その際の購入価格までは正確に追跡調査できませんから、発表される経済指標よりも実感した価格上昇率の方が低く感じるという逆の乖離が表れるケースも存在するのです。