はじめに

うちのお客さんは価格にシビア、は本当か?

同様の例はもちろん食品だけに限らない。別の例も見てみよう。

トヨタカローラ博多・空港榎田店は、同社の店舗の中でも最大級のもの。そこに新たに店長として着任した池田晋吾氏は、自動車整備に入庫する車1台当たりの単価をもう少し上げられないかと考えていた。

そこで目を付けたのが「ガソリン添加剤」だ。ガソリンタンクに注入することでエンジン内部の汚れなどを洗浄し、エンジン性能の低下防止、排ガスのクリーン化などが図れるものだ。価格は2860円と衝動買いが可能な価格でもあり、入庫当日に追加整備として受け付けたとしても、整備時間が延長されることもなく、整備士の負担増にもならない。

これはよいと社内に提案してみると、返ってきたのは「うちの店のお客様は値段にシビアだから、『高くなるならいらない』と言って断られますよ」という反応だった。確かに、池田店長が前にいた店舗では直近の5月だけで27個も売れていたが、同店では3個だけ。

とはいえ、まずはやってみようとなり、スタッフとともに改めて商品について勉強、お客さんにお勧めする際のトークも整備し、ロールプレイングで徹底。さらに、来店するお客さんに関心を持ってもらうため、店頭に「お車の栄養ドリンク本日あります」と書いた看板を用意し、6月の増販チャレンジへと進んだ。

まず6月1日から13日までの実働11日間は、今までと同じ売り方をした。結果は、11日間で1個の販売。

そして16日からは例の看板を設置し、準備していた販売方法を始めると、いきなり初日に6個売れた。翌日からはエンジン内部の写真付きで汚れと効果をわかりやすく説明できるツールを用意して臨んだところ、さらに販売数は伸び、5日間で合計58個、1日当たり11・6個の販売実績となった。それまでは11日間で1個の販売だったものが1日11個だから、実に120倍以上の売上である。

池田氏は言う。「何か商品を増販しようとすると、ついキャンペーン価格で割引しようとするきらいがありますが、今回は割引しなくても増販できることが証明できました」。

売れなかった原因は、「価格にシビアなお客さん」にあったわけではなかったのだ。

値引きをやめて価値を伝えたら、売上が7倍に

もう少し単価の高い商品の例も見てみよう。その商品とは、補聴器だ。

福岡県柳川市のメガネ・補聴器の店「メガネは野口屋」の緒方幸子氏は、補聴器の販売促進のため、補聴器相談会を開催し、そこから販売につなげようと考えた。

まずは補聴器メーカーにほぼ言われるがまま、「信頼の日本品質」「電池交換が簡単」など商品がメインの、10%値引きを打ち出したチラシを約2万枚配布した。しかし結果は惨敗。相談会は1カ月間開催したが、購入者は1名という結果だった。

その後、自作のチラシで再びチャレンジ。今度のチラシは、「補聴器を使うことの価値」を伝えることを意識し、今回相談会に来てほしい客層にわかるように「聴こえてないのに愛想笑いをしたり、会合で二度聞きする回数が増えたり、そんなときは補聴器が有効」などと具体的に訴求。商品についてはさらっと「様々な補聴器を取り揃えております」だけで、ほぼ訴求なし。値引きは取りやめた。

さらに、「野口屋に補聴器の相談をする価値」も伝えるべく、認定補聴器技能者がいること、創業が明治16年と古く、当地で長く商売を続けていること、現社長の祖父が補聴器の取り扱いを始めて以来の思いなどを訴求。「補聴器を使用したら余計に聞こえが悪くならない?」など、よくあるお客さんからの質問も列挙し、メインスタッフの顔写真入りでその答えを書いた。

結果は、ほぼ同じ枚数のチラシを打ち、同じ1カ月間の開催で購入者13名。期間中の売上は前回の7・5倍となった。

単価にかかわらず、大切なことは「価値が伝わるかどうか」。そして価値さえ伝われば、値引きは必要ないのである。

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