はじめに

比較対象を広げると、値付けは自由になる

たとえば、「キャンプ場」の価格はおおむね5000円ほどだ。これを別の内的参照価格と比較してもらうには、どのような比較先が考えられるだろうか。

岡山県でキャンプ場を運営する「おおさネイチャークラブ」の松下昌平氏は、「学校」や「塾」と参照してもらうことを考えた。

彼は常々「自然体験を通して自立した社会人になってもらいたい」と考えており、その役割とは学校に比すべきものではないかと思い至ったという。自然体験は、問題解決能力、主体性、協調性、忍耐力など、いわゆる非認知能力と呼ばれるものを鍛える。それは、学校や塾ではなかなか学べないものだ。

そうしたプログラムをより提供することができれば、学校や塾と同等の価値を親が感じてくれるかもしれない。今主流の個別指導塾なら、通う回数にもよるが、月に2、3万円くらいの価格だ。5000円の内的参照価格が、一気に5倍近くまで上がることとなる。

たとえば「フラダンスを習うこと」を「健康維持のための投資」と参照してもらうこともできるかもしれない。

もっとも、千葉県でフラダンス教室「フラ ハーラウ オ ラウレア」を営む青木みどり氏によれば、実際に健康維持のために通う方は少なくないのだそうだ。

同教室にも、本格的にフラダンスを学び、発表会や大会に出る方のためのコースや個人レッスンとは別に、健康維持が目的の方のためのコースもある。

そのコースの月謝は5000円。ちょうど健康食品1カ月分くらいの価格だ。たとえば、このコースがいっそう、健康維持のために充実したプログラムを加えていくなら、生徒にとってはより安く感じるだろうし、より高いコースの設定も可能だろう。

横浜市に本社を置く「上薬研究所」のサプリメントなら、内的参照価格は同じ健康食品ではなく、「スポーツジム」でもいいかもしれない。

実はそれを体現しているのが、社長の田中愼一郎氏だ。氏はその世界では有名なアマチュアマラソンランナーで、先般も本州1550㎞を縦断するチャリティマラソンに出場し、見事完走。その模様はSNSで逐次伝えられ、新聞にまで取り上げられた。

そんな氏がある意味広告塔となり、霊芝を原料にした同社商品の効能をPRしている。健康維持はもちろん、これだけ過酷な競技ができる身体を維持できるのだと。

同社商品は、1カ月分で1万5660円。卸先のドラッグストアでは最も高い価格帯の商品で、他の健康食品と比べても高価だが、ジムなら月に1万~2万円はざらにある。ジムと参照されれば、決して高いものではない。

これらの例のように、キャンプ場が他のキャンプ場を、サプリメントが他のサプリメントを基準にするのではなく、お客さんにもそれを参照してもらうのではなく、その幅を広げる。
それにより、値付けの可能性は大きく広がるのである。

安くしすぎるとかえって売れなくなる?

(3)の「最低受容価格」についても、少し補足しておきたい。

「最低受容価格」とは、顧客が「これ以下の価格だと品質が劣ると考える価格」のことである。

つまり、創意工夫の結果とても安い原価で製品を作ることができたとしても、 お客様のためだからとあまりに安くするとかえって売れなくなるケースがある ということだ。これもまた「安売りのワナ」の一つだろう。

代表的な業界としては健康系だ。たとえば、サプリメントの製造販売をするようなメーカーにこのアドバイスをすることがしばしばある。自分の体の中に入れるものに関しては、安すぎるとかえって不安になるという顧客心理が働くのだ。

また、元々ブランド価値が高いものなども、それに当たるだろう。

以前、有田に旅行した際、有田焼のいいお店を見つけた。価格も相応で納得感があるもので、ついつい大量に買ってしまった。すると会計の際、店の人から「2割引いておきますね」と唐突に言われたのだ。

確かに、言われた瞬間は「得した」と思ったのだが、あとでちょっと微妙な気分になってきた。「元々の定価はなんだったんだろう」と思ってしまったのだ。

だとしたら、値引きをしてさらに相手に微妙にマイナスの感情を与えてしまうわけで、これはもったいない。こちらが納得しているのだからその価格で売ってくれればいいと思うし、せめて「なぜ値引きするのか」を明らかにしてくれればよかったと思う。

このように、「意味合い消費」の世界では、安売りや割引がマイナスになってしまうこともある。

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