はじめに
スーパーのクッキーを「デパ地下価格」に
この「内的参照価格」を見事に活用した例をご紹介したい。北海道は十勝地方にあるスーパー「デイリーショップヤマモト」の例である。
店主の山本順一氏があるメーカーのアーモンドクッキーを食べてみたところ、非常にクオリティが高かった。しかし、残念なことにパッケージがイケていなかった。パッケージさえ高級感のあるものにすれば売れるはずなのに、もったいない。
ちなみにこの商品の推奨小売価格は258円だった。しかし、店主は「本来ならデパ地下で500円くらいの価格で売ってもいい商品だ」と判断した。
そして、POP等で「デパ地下レベルのおいしさ」「500円の価値がある」などのメッセージを添えて、推奨小売価格より2割ほど高い、ほぼ定価の298円で売り出した。
すると、これが爆発的にヒット。たった23坪の店であるにもかかわらず、今やこの店が、山本氏が所属するチェーンの中でこの商品を北海道で一番売っているという。
つまりこの事例では、 内的参照価格を「スーパーのお菓子」から「デパ地下のスイーツ」に変えることで、より高い価格で販売することができた といえる。
ちなみにこの事例は、小売業にとってもう一つ、大きなヒントを与えてくれる。
通常、小売業は商品に対して変更を加えることができない。入ってきた商品を見て「こんなの売れるわけがない」「もっとこうすればいいのに」と思うようなことも多々あるだろう。
しかし、そういう場合でもこの「内的参照価格」を応用することで、なんらかの工夫をすることは可能だということだ。
ちなみにこの店では他の商品も含めて続々値上げをしているが、客数も売上も上がり続けている。店主の山本氏は世間が物価高で騒ぎ出した4月に、「値上げをするなら今です」とすら言い切っている。
正直、この店は、外見の写真を見る限りでは、通りすぎてしまうような普通の店だ。面積も狭い。にもかかわらず、今や十勝地方全域からお客さんがやってくる人気店となっている。
それはなぜかと言えば、店主が選別した商品が、そこを訪れる人たちの毎日を充実させてくれるからだ。この店に来ることが何より「意味のある」ことなのである。
布団屋さんがディズニーランドになる
もう一つ、極めてユニークな例を挙げたい。それは、「内的参照価格がディズニーランドの布団屋さん」だ。
大分に「いとしや」という寝具店がある。店頭にはもちろん布団も並んでいるが、それだけではなく、さまざまな生活雑貨や家具などが並び、楽しくなる工夫が施されており、行くだけで楽しい布団屋さんである。
あるとき、店主・大杉天伸氏はお客さんからこんな話を聞いた。その家族は毎年、ディズニーランドに行くために積み立てをしていた。しかし、それよりもいとしやに行くほうが楽しいということで、今後はその積み立てを「いとしや積み立て」に変えたという。
これを聞いて私は思った。「いとしやで1年に使うお金の内的参照価格は、寝具店ではなくアミューズメントパークなのだ」と。
九州から家族4人でディズニーランドに行くとすると、その費用は、20万円はくだらないだろう。ということは、いとしやで5万円、10万円の布団を買ったとしても、彼らにとっては「想定内」ということになるわけだ。
誰もが、「文具メーカーは文具メーカーと」「蕎麦屋さんは蕎麦屋さんと」など、同業種を基準に価格を考える。しかし、 内的参照価格を他業種にまで広げることができれば、値付けの可能性はいくらでも広がる。