はじめに

米ドル高・円安が止まりません。ついに1998年の米ドル高値も更新し、1990年以来、約32年ぶりの米ドル高・円安となってきました。これまで経験したことのない円安が起こっていると言えます。

そんななか囁かれるのが「1米ドル=200円へ向かってまだまだ円安は続くのか」と言うことですが、それはさすがに違うと筆者は考えます。その理由について説明していきます。


為替相場は循環する

図表1は、1980年以降の米ドル/円の推移です。これを見ると、米ドル/円は過去40年余りで1米ドル=70~300円の間で変動してきたことがわかります。

では、ついに1990年の160円すら超えて、200円以上へ戻る米ドル高・円安が足元で始まっている可能性はあるのでしょうか?

図表2は、そんな1980年以降の米ドル/円を、過去5年間の平均値、5年MA(移動平均線)かい離率にしたものです。これを見ると、米ドル/円は過去5年の平均値を軸に、プラスマイナス30%の範囲を基本的に循環してきたことがわかるでしょう。

さて、足元の米ドル/円は5年MAを3割以上上回ってきました。図表2を見ると、5年MAを3割以上上回ったケースは、1980年以降でこれまで2回ありましたが、2回とも、5年MAを3割以上上回ると米ドル高・円安は終わりました。

以上のように見ると、ここまでの米ドル高・円安は過去にも経験した範囲内の動きであり、むしろ最終局面を迎えている可能性がありそうです。ただ人間の感覚は、このように過去の経験の限界を超えそうな相場の動きになると、「これは今まで経験したことのない動きなので、これまでの経験と言う物差しは使えなくなった」といった受け止め方になりがちのようです。

例えば図表2で、今回のように5年MAかい離率がプラスマイナス30%以上に拡大したケースは、1980年以降だとプラス方向が1998年と2015年、マイナス方向だと1987年と1995年といった具合で計4回ありました。

このうち1998年は結果的に1米ドル=147円で米ドル高・円安は終わりました。当時外貨投資を行っていた知人に、改めてその頃のことを聞いてみると、「書店には1米ドル=200円の円安もありうる、といった本があふれて、私も140円以上で米ドル建ての外貨預金をやってしまい、その後は長いこと塩漬けになってしまった」と振り返っていました。

一方、マイナス方向で5年MAを30%以上下回った1995年は、史上初めて1米ドル=100円を超える円高、「超円高」が広がり、1米ドル=80円といった当時の米ドル最安値(円最高値)を記録した局面でした。

この局面について、私がよく紹介するエピソードがあります。それは、ある経済専門誌の選出した「ベスト・カンパニー」を巡るものでした。「ベスト・カンパニー」受賞に対して同社の社長のコメントは以下のような主旨でした。

「超円高でも我が社が高く評価されたのは海外生産比率95%といった円高の影響を受けない体制を構築できたことにありました。ただそれは国内の雇用へ貢献しないといった批判もありますが、それなら120円まで円安に戻してください。この円高は構造的なものでそれは無理でしょう」

ところが、その後3年程度で、米ドル高・円安は120円どころか150円近くまで戻り、そういった中でこの会社は、他社に吸収されていくところとなったのでした。

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