はじめに
極端に行き過ぎた相場で起こる反応
為替相場は上がったり下がったりするもの、別な言い方をすると循環するものです。それは図表2を見るとよく分かるでしょう。しかし人間の感覚は、行き過ぎた動きがしばらく続くと、次第に「これは未体験の新しい動きかもしれない」との受け止め方になりやすいようでした。
図表2において、2011年は、5年MAかい離率がプラスマイナス30%を超えるまでには至りませんでしたが、1米ドル=75円という、今に至る米ドル最安値(円最高値)を記録した局面でした。この当時は、「この円高は誰にも止められない。50円まで一段と米ドル安・円高が進む」といった見方が専門家の間でも珍しくありませんでしたが、結果的にはそうなりませんでした。
5年MAかい離率がプラスマイナス30%前後まで拡大したケースは、振り返ってみると円安または円高が行き過ぎた動きではありましたが、それはあくまで中長期の循環の範囲内における極端に行き過ぎた動きということでした。
「これは行き過ぎた動きですよ」と言っても、説明を聞いた方は「新時代の始まりを理解できず、古い考え方で相場が行き過ぎていると間違っている」と受け止めることも多いかったようです。ただ事実は、とてもシンプルに行き過ぎだったということに過ぎなかったのです。
図表2の中で、5年MAかい離率が1980年以降で最大に拡大したのは、1987年のマイナス40%超に拡大したケースでした。マイナス方向への拡大ですから、これは行き過ぎた米ドル安・円高の動きでした。
1985年には有名な「プラザ合意」という、交際的な協調介入がありました。米ドルの大幅切り下げが実現したことで、1米ドル=250円程度から、ほんの2年程度で半値以下の120円まで米ドルは大暴落しました。米ドルの切り下げ合意で始まったものの、やがて勢い付いた米ドル安は歯止めがかからなくなり、その中で記録したのが1987年に米ドル/円が5年MAを40%以上下回った動きだったのです。
さて、9月末の米ドル/円の5年MAは112.2円でした。急ピッチの米ドル高・円安を受けて、5年MAも今後一段の上昇が見込まれます。仮に5年MAを115円として、それを40%上回るなら161円という計算になります。
この半年余りの急激な米ドル高・円安は、米金利とかなり強く連動し、とくに金融政策を反映する米2年債利回りでうまく説明できるものでした(図表3参照)。これを見ると、米インフレ対策の利上げが終わるまでは米ドル高・円安も終わらないかもしれません。
例えば、上述のように5年MAとの関係で見ても、極端に行き過ぎた米ドル高・円安が、米インフレ対策の利上げに連れて1990年の米ドル高値の160円まで続く可能性はゼロではないかもしれません。それでも、米ドル/円の中長期的な循環パターンが崩壊し1米ドル=200円に向かうということは、やはりないのではないでしょうか。