はじめに

世界最高機関とも呼ばれるFBIですが、そこで組織を導くリーダーになるのはどんな人物なのでしょうか?

そこで、元FBI特別捜査官で防諜責任者を務めたフランク・フィグルッツィ氏の著書『FBI WAY 世界最強の仕事術』(あさ出版)より、一部を抜粋・編集してリーダーに必要な素養を紹介します。


「組織の誠実さ」を育むのはリーダーのふるまいと不祥事に対する姿勢

FBIへの入局は、コンサーバンシー(共同で地域や物事の価値を守る取り組み)に加わることを意味する。

コンサーバンシーとは、共同で力を尽くして地域や物事の真の価値を守る取り組みだ。加わった者は組織の一員となり、自分より大きな存在を守る責務を担う。そして、自分がその責務を果たしていると思えるときには、組織の価値観にただ従っているのではなく、その価値観が自分の中に溶け込んでいるのだ。組織がコンサーバンシーの精神の種を蒔く第一歩は、メンバーに、各自の行動が組織にどのような影響を及ぼすかという観点で責任を負わせることだ。

FBIでは誰もが誰かに対して責任を負っている。現場捜査官はチーム管理官に責任を負い、チーム管理官は副局長(ASAC= Assistant Special Agent in Charge)に、副局長は局長(SAC= Special Agent in Charge)に、局長は副長官に、副長官は長官に、長官は米国司法副長官(DAG= Deputy Attorney General)に、司法副長官は司法長官に、それぞれ責任を負う。

最終的に、FBIの職員はみな、選挙で選ばれた連邦議会議員を通してアメリカ国民に対して責任を負っているのだ。そして連邦議会議員には、地元の有権者に対する責任がある。

組織の価値観を守るためには、リーダーが説明責任を負わなければならない。結局は、上位のリーダーのふるまいと不祥事に対する姿勢が、その組織に誠実さを育むのだ。

FBI本部の補佐官たちは、FBIの作戦、支援、管理に関する各プログラムを統括し、休日以外毎日、次官や長官に概要を伝えている。長官は午前中にブリーフィングを受けた後、司法長官に報告し、私がいた当時は、両者がその後ホワイトハウスに出向いて、大統領に報告を行っていた。

また、FBIの職員は丸1日と空けずに国会に足を運び、上院または下院の委員会で報告を行っている。職務責任局で抱えている各案件については、司法省の監察官(IG= InspectorGeneral)に閲覧権限があり、いつでも、重要度がとくに高いと思われる内部告発ファイルを未決箱から取り出すことができた。この報告と監督の仕組みはうまく機能していたが、それはひとえに、誰もが誰かに対して責任を負うことが全員の総意になっていたからだ。

コンサーバンシーという考え方は、正しく運用すれば、組織の規範を保つ強力な武器になる。

FBIでは、この考え方が幹部職だけのものではなく、FBI全体のコンプライアンスの仕組みの土台になっていた。捜査官ならほぼ全員、着任して間もない頃にチーム管理官に声をかけられて、〝新案件〞を渡された経験があるはずだ。その新案件はFBI公用車のバンパーをへこませた事故で、チームの同僚も調査対象だったりする。FBIの車が事故を起こしたら、たとえ小さな事故でも調査しなければならないが、その調査を担当するのは、その直前の事故を起こした者というのが慣例だった。その該当者を誰も思い出せない場合は――不思議と頻繁に起こる現象だった――、その仕事はチームでいちばん新米の捜査官が担当する。

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