はじめに

デジタル給与払いを巡る対応

一方で、今まで当たり前のように給与振込先として指定されていた銀行は、これまでのように預金集めや顧客確保などの優位性が得られなくなる懸念があります。

また現在、企業は給与を銀行振込で行っていますが、その際に発生する手数料は大きなコストです。決済アプリ業者への送金は銀行振込ほど手数料がかからないため、企業側は受け入れやすいでしょう。銀行もデジタル化への大きな流れに対応しようと、昨年10月に振込手数料の値下げなどの対策を取ってきました。

また、メガバンクが中心となり、10万円以下の個人間送金が無料になる場合もある決済システム『ことら送金サービス』を2022年10月から開始しました。銀行は今まで以上に顧客との接点を強化していく必要があるのではないかと思います。

そもそも日本のキャッシュレス決済比率は2020年の調査では30%程度でした。オーストラリアや英国は60%台 、米国は50%台などと世界と大きく差が開いています。日本は2025年までに40%まで引き上げる目標を立てています。

このデジタル給与の取り組みは、2018年に東京都が国家戦略特区の会議で提案、議論したことが契機となり、外国人労働者などが銀行口座を持つことが難しいことなどを理由に挙げていました。

基本的に家賃やローン、クレジットカードの引き落としは毎月銀行口座から引き落とされるので、給与の全額を決済アプリ業者への送金にすることは考えにくいと思います。利便性を考えて銀行口座と決済アプリ業者の双方への振込が可能であれば利用したいと考える方が多くいらっしゃるかもしれません。

しかし、支払う側は今まで一元化していた給与振込が煩雑になり事務などの負担が増える懸念もあります。

現状はコスト面、リスク面において考慮すべき点が多く、実現に向けてすぐに動き出せる段階ではないかもしれません。解禁後、労働者と企業側がどのような選択をしていくのか、行方が気になるところです。

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