はじめに

個人事業主だけでなく企業の対応も問われるインボイス制度。

税理士として企業の顧問や実務家へのセミナーなどを手掛ける小島孝子氏と、お笑い芸人であり税理士として事務所を開業している個人事業主の一面も持つかじがや卓哉氏に、実際にインボイス制度がスタートした後の業務負担などの疑問点をお聞きしました。インボイス制度はなぜ生まれたのか、個人事業主はどう対応するべきなのか、3本連載でお届けします。

小島孝子
神奈川県生まれ、税理士。ミライコンサル株式会社代表取締役。1999 年早稲田大学社会科学部卒、2019 年青山学院大学会計プロフェッション研究科修了。大学在学中から地元会計事務所に勤務した後、都内税理士法人、大手税理士受験対策校講師、一般経理職に従事したのち2010 年に小島孝子税理士事務所を設立。税務や経理業務に関する執筆やセミナー講師の傍ら、街歩き、旅好きが高じて日本全国さまざまな地域にクライアントを持つ、自称、「旅する税理士」。著書に、『会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん』(税務研究会出版局)、『3年後に必ず差が出る20 代から知っておきたい経理の教科書』(翔泳社)、『この1冊ですべてわかる経理業務の基本』(日本実業出版社)などがある。

かじがや卓哉
神奈川県生まれ。吉本興業所属。日本税理士会連合会所属の税理士。高校卒業後、25歳で税理士試験に合格し、日本税理士会連合会所属の税理士になる。税理士試験受験中、吉本興業の養成機関であるNSCに入学。家電芸人として人気テレビ番組「アメトーーク!」(テレビ朝日)に出演。著書に『iPhone芸人かじがや卓哉のスゴいiPhone』(インプレス)などがある。


インボイスによって仕事は減る?

──インボイス制度によって、年収1000万円以下の免税事業者への発注が減ると不安に思う個人事業主の方もいますが、実際にどうなると予想していますか?

小島孝子氏(以下小島):そこは結構難しいところですね。私が相談を受けた範囲ですと、発注先を変えようにも他にお願いできる人がいないというのが現状のようです。最近は人材の採用も苦労されているようなので、別の人に仕事をすぐ置き換えるというのはあまり簡単な話ではないですね。

かじがや卓哉氏(以下かじがや):日本商工会議所が9月8日に公開したアンケート結果によると、課税事業者になる予定の免税事業者は約3割だそうです。

──かじがやさん個人としては、どのように対応される予定ですか?

かじがや:僕は仕事によって課税事業者の部分もありますし、免税事業者の部分もあります。そのため、現状を考えるとインボイス対応しなければいけない所には値引き対応をして、引き続き免税事業者としていく方が、すべてを課税事業者として切り替えていくよりもトータルで見ると負担が減るのではないかと思っています。ただ、これまでと同じ額の報酬がもらえるとは限らないので、一部なりとも負担は増えると思います。

加えて、売上高が5000万円以下の事業者向けの制度として「簡易課税」というものがあります。簡易課税制度は、インボイス導入後も維持される予定です。インボイスは売上から仕入れの計算のうち仕入れを見るものですが、簡易課税は売上から計算するものです。値引き対応でお互いの折り合いがつかないようであれば、簡易課税を選択するという選択肢もあります。

小島:大前提として、「インボイス対応していないのであれば値下げしてください」と発注側がアプローチするのは独占禁止法の関係で違法となります。そのため、あとは価格交渉のような話し合いが重要になってくるのではないかと感じています。

かじがや:消費税の話で例にあげた農家さんと八百屋さんの話でいえば、本来は納めるべきお金だったのに、免税事業者である農家さんが負担を免除されていた消費税50円を、農家さんと八百屋さんで25円ずつ負担するのか、それともまた別の落としどころを見つけるのかという話なんです。これが1件だけでなく10件、100件となると金額も膨大になってくるので、消費税の支払いという話だけでなく元々の金額自体をもう1度しっかり決めないと経営に影響してくると思います。

小島:契約の形態別でも、ある程度ルールの整理が必要だと思っています。たとえば、有期契約で契約書に金額の記載がある場合は一方的な理由での金額変更は難しくなります。そのため、発注側はどんなに損していても契約期間終了までは継続しなければいけません。

また、企業がイラストレーターさんなどの個人事業主に個別発注する際は、税金分を減らした金額を提示してくると思うので、報酬の相場が下がってしまう可能性もゼロではありません。

──企業側からすると、個人事業主によって対応を変えていく方がいいのか、一括で対応するのかといえばどちらが正しいのでしょうか。

かじがや:ほとんどの相手がインボイス対応の課税事業者の中で免税事業者の数が僅かなのであれば、それは一括でもいいと思います。ただ、それは基本的に業界や業態によって異なるのではないでしょうか。

あと、どうしてもインボイスの話題は大企業とフリーランスといった構造になりがちですが、中小企業同士でも起こり得ることです。そうなると取引先によって課税事業者と免税事業者が混ざることもあると思います。

小島:現実問題として、たとえば喫茶店での打ち合わせの際にレシートにインボイスの番号が入っていないということも想定できると思います。そのため、経理側の対応としてチェック体制をどうしていくかは問題になっている部分です。

かじがや:これはインボイス対応したフリーランスの人も一緒です。その喫茶店が免税事業者であればインボイス番号が無いので控除できない、チェーン店であれば番号があるので控除できるという状態ですね。

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