はじめに

■簡易課税ならインボイスの保存義務は不要

消費税の計算は、本来、売手と買手がお互いにやり取りした税額を申告に反映させることで、消費者が負担した消費税額と各事業者が納税した納税額との均衡が保たれる制度でした。でも、これには昔から証明できる請求書等の保存が要件とされていたし、会計ソフトなどを使って、仕入れの税金を集計できないと計算できません。そこで、消費税導入時から、手計算で申告する人向けに、実際の仕入れの請求書の金額は使わず、 売上げの税金の一定割合を仕入れの税金とする「簡易課税」という方法が認められています。

■簡易課税は売上の業種により控除率が決まる

簡易課税の計算に利用する割合を「みなし仕入率」といいますが、みなし仕入率は次の業種分類ごとの率を用います。

■簡易課税を使えばインボイスは必要ない

簡易課税の計算には、売上の消費税しか使わないため、インボイスの保存は要件ではありません。そのため、もらったインボイスが記載要件を満たしたインボイスであるかの確認もいらないし、相手が免税事業者かどうかも気にする必要はありません。インボイスの保存すらいりませんから、インボイスの管理が難しい人でも導入しやすいといえます。ですが、これを使うには要件があります。

■簡易課税にする?しない?どちらの方がいいのか問題

いろいろメリット満載の簡易課税ですが、5,000万円以下の売上要件を満たした場合でも、必ずしも簡易課税がいいというわけではありません。なぜなら、両者で計算される納税額は異なるので、場合によっては多めに税金を払うことになってしまうのです。一番上の図でそれぞれの納税額は、原則的な計算では170、簡易課税では100となります。このケースだと簡易課税は70有利ですね。このように、簡易課税が有利になるか不利になるかはその年の売上と仕入のバランスによりますが、簡易課税は事前に「簡易課税制度選択届出書」という書類の提出が必要なので、前もってどちらにするのかを決めなければなりません。 具体的には以下のとおりです。

■インボイス導入前後で有利不利が変わることもある

最後に気を付けたいのが、インボイス次第で有利不利が変わることがある、という話です。たとえば、一人親方やエンジニアなど、小規模なフリーランスに仕事をお願いしていた場合、これらの人からインボイスをもらえないと、原則の方法での 仕入税額が大幅に減少することも考えられます。そうなると、簡易課税がよかった!となることがあるので注意が必要です。

書籍情報

会話でスッキリ 電帳法とインボイス制度のきほん

著者:小島 孝子
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「インボイスってなにするの?」「電子帳簿保存法って、なんだかめんどうなんでしょ?」
急激にこのような質問をされる機会が多くなりました。まだまだ制度に対する理解が進んでいないことを実感しています。
すべての事業者が制度を理解し、ストレスのないデジタル環境を整えるためには情報が不足していることは明白であり、この素晴らしい環境の普及には、誰もが理解できる簡単な解説書が必要だと考えていました。
インボイス制度や電子帳簿保存法を取り上げた書籍はすでに多数発刊されておりますが、本書は「経理のデジタル化」という切り口から両法律の制度解説だけに留まらず、これからの経理のデジタル化の動向、これらの制度を活用した経理のデジタル化の提案などを、愉快な登場人物たちとともに楽しく学べるように構成しています。

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