はじめに
食品宅配市場が広がりを見せています。最近では、ネット通販大手のアマゾンが4月に生鮮食品の宅配事業をスタート。流通大手のセブン&アイホールディングスも11月から同様のサービスを始める予定です。
そんな大手参入で活気づく生鮮食品の宅配市場にあって、ネット通販としては驚異的なリピート率を記録。今年1月のリリースから1年足らずで、月商が当初の10倍と急拡大を続けているベンチャーがあります。リピーターの心をとらえて離さない「IT八百屋さん」の魅力は、どこにあるのでしょうか。
宅配拠点はオシャレな八百屋さん
東京・根津。江戸の風情が残るこの街の一角に、オシャレな外観の八百屋さんがありました。お店の名前は「べジオベジコ」。宮崎県に本社を置く、同名のベンチャー企業が運営しています。
取り扱っている商品のうち、8割ほどが本社のある宮崎県産の有機野菜。お店を訪ねたこの日は、濃厚な甘みが詰まったヒョウタン型の「バターナッツかぼちゃ」(680円)や、生産が途絶えて3粒しか残っていなかった種から奇跡的に復活した「幻の佐土原なす」(350円)など、フォトジェニックで珍しい野菜が売られていました(価格はいずれも税込み)。
実はこの八百屋さん、ただ店頭で野菜を販売しているだけではありません。専用アプリ「VEGERY」から注文すれば、東京23区のうち渋谷区を中心とした8区なら1時間以内に宅配してくれるのです。このエリア内の場合、1,500円以上の買い物で送料は390円。10月からは全国への宅配も始めており、こちらは3,500円以上の買い物で送料は関東で580円~となっています(配達は注文の翌々日)。
今年1月にアプリをリリースしてから、売り上げは当初の10倍まで拡大。勢いを牽引しているのが、リピート客の存在です。
一般的なネット通販の場合、リピート率は30~40%といわれています。それがVEGERYの場合、54%と極めて高い水準となっています。3回以上注文した客の割合は全体の30%程度で、3日に1回のペースで頼んでいる人も多いそうです。
何がリピーターを引き付けているのでしょうか。代表取締役の平林聡一朗さんは「UX(ユーザーの体験)やUI(サービスの画面表示や操作感)に何よりもこだわりました」と話します。
インスタのようなアプリ画面
たとえば、注文から配達までの手間。ユーザーはアプリをダウンロードして、住所などの基本情報を入れておけば、3回のタップで注文が完了。あとは、1時間ほど待っていれば家まで商品を届けてくれます。
これなら、仕事が忙しく、なかなか自宅にいない人でも気軽に頼めそうです。メールアドレスなどの登録は不要で、「2回目以降も頼みやすくなるよう、心がけた」(平林さん)といいます。
アプリの見せ方にも、かなり気を配っています。商品紹介の写真は、木の板の上に野菜が置かれ、オーガニックな雰囲気が漂います。ズラリと並んだ商品写真の一覧は、どことなくインスタグラムっぽい印象もあります。商品写真をクリックすれば、その商品の生産にまつわるストーリーを読むことができます。
配達の場面でも、お客さんにただ商品を手渡すだけではありません。初めて頼むお客さんにはおいしい調理法を紹介したり、リピーターのお客さんには前回届けた商品の感想を聞いたり、どんな商品が欲しいかといった質問をします。
それがきっかけになって、宮崎県産の牛肉や調味料、アジフライのような加工品など、商品のラインナップを強化してきたそうです。「イメージしているのは、現代の三河屋さん」と、平林さんは語ります。
VEGERYのビジネスモデルは、仲介業者を介さず、商品の仕入れから配達まですべて自社で完結させる一気通貫が特長です。
契約した農家から直接仕入れるので、お客さんは新鮮な状態の商品を手にできます。実際に農家とやり取りする中で、あまり市場に出回っていなかった珍しい野菜を発掘できたり、従来であれば廃棄していた「間引き野菜」を商品化することもできました。中間業者が入らないので、流通コストは一般的なスーパーの3分の1程度に抑えられています。
「これまでの流通モデルだと、特にラストワンマイル(最終ユーザーまでの最後の1区間)にコストがかかっていました。だから、農家からの仕入れ値にシワ寄せが行っていました。配達を自社で手掛けることでコストダウンすれば、農家の人もハッピーになれるわけです」(平林さん)