はじめに

農家もお客さんもハッピーに

平林さんが現在のビジネスモデルを立ち上げた理由も、そこにありました。元々は東京の大学で国際政治を学んでいましたが、2011年に東日本大震災が発生した直後、知人が陸前高田市で運営していたNPO法人を手伝ったことがきっかけとなり、自分の故郷である宮崎のために仕事がしたいと考えたそうです。

宮崎県といえば、日本を代表する農業県の1つ。農家のために何かできないか。当時は宮崎から全国へスムージーの食材を販売していたベジオベジコに入り、5年前に会社を引き継ぎました。スムージー食材の販売先は半分以上が関東在住で、中でも港、目黒、渋谷、世田谷の4区に集中していました。

「東京都心に住んでいる人は食への感度が高い。スムージー食材に限らず、幅広い農産物を自分たちで届けられれば、農家もお客さんもハッピーになるのではないか」

そう直感した平林さんは、宮崎の農家を口説く作業に取り掛かりました。と同時に、アプリを介した通販のための体制構築にも着手。今年1月、ようやくアプリのリリースにこぎ着けました。


「旬を迎えたカボチャが最近のオススメです」と平林さん

現在のベジオベジコは、仕入れの宮崎、配達の根津と渋谷という3拠点で、アルバイトも含めて30人ほどの規模となりました。今後は1時間以内の配達可能エリアを12区から23区に拡大させるため、新しい拠点の開設を検討しているそうです。

配達がメインであれば根津のような実店舗を構える必要性は薄そうですが、平林さんは「そうではない」と言います。まだまだ会社の知名度が低いため、リアルな店舗がないと、お客さんが不安に思ってしまうからです。

根津という東京有数の散歩の名所に店を構えることで、副次的な効果も生まれています。旅行客や散歩で根津を訪れた人がふらりと店に立ち寄り、野菜を買ってもらえたとします。その野菜をおいしいと感じてもらえたら、今度は宅配でリピートしてくれるようになるケースも多いそうです。

差別化のポイントは「温かみ」

VEGERYのリリースからこれまで、順調に事業を拡大してきたベジオベジコ。ですが、生鮮食品の宅配市場は今後、激しい競争環境に突入しそうです。

ネット通販大手のアマゾンは4月に「Amazon Fresh」というサービスを開始。1万7,000点以上の食品のほか、日用品や雑貨など計10万点を最短4時間で宅配する事業を東京東部の6区で展開しています。

また、流通大手のセブン&アイホールディングスは通販大手のアスクルと提携し、11月から「IYフレッシュ」という新サービスの導入を予定しています。こちらは約1万点の食品を東京都内や大阪などでスタートさせるとしています。

大手企業が相次いで参入する中で、VEGERYは生き残ることはできるのでしょうか。平林さんは「アマゾンやセブンが参入してくることは業界にとって追い風」だと見ています。生鮮食品の宅配事業は日本ではまだ認知度が低く、大手参入によって市場のすそ野が広がることは大歓迎、というわけです。そうした中で、VEGERYは「自前主義」で差別化を図ります。

「これから世の中でテクノロジーがどんどん進展していくでしょう。大企業はテクノロジーを使って効率化を進めていきますが、工程のすべてを自社のスタッフで賄えません。それに対するわれわれの強みは、どれだけ温かみを提案できるか。お客さんの生の声を拾い続けることで、『食にこだわりのある人のためのVEGERY』として存在感を高めたいと考えています」(平林さん)

将来は、「フルーツの千疋屋」「羊かんの虎屋」のように、「野菜のVEGERY」になりたいと平林さんは笑います。宮崎から東京に飛んできた野菜宅配ベンチャーの“種”は、大輪の花を咲かせることができるでしょうか。

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