はじめに
狙い目は「東京駅ダイレクト」
かつて、首都圏マンション市場には「『の』の字の法則」がありました。東京都心を出発点にして神奈川→東京都下→埼玉→千葉の順に「の」というひらがなの書き順と同じ形で不動産価格が上昇し、下落するときは逆の順に値下がりしていく、というものです。この法則が最近では崩れ始めている、と東京カンテイの井出さんは言います。
理由は、首都圏各地で進んでいる再開発です。たとえば、JR山手線では2駅に1つの割合で駅前の再開発が進んでおり、こうしたエリアでは不動産価格が上がっています。田町や日暮里などがその例でしょう。
しかし、再開発といえば、最も活発に進められているのが東京駅周辺です。新築のオフィスビルが次々に建設され、企業の集約が進んでいます。この東京駅にダイレクトにアクセスできる駅の価値が高まっているといいます。東京都区部では手が出ない人にとっては、JRの中央線や京浜東北線、地下鉄の大手町を通る沿線などが狙い目となりそうです。
実際に、東京駅を通る京浜東北線と、新宿を通る埼京線で、資産価値の維持度合いについて比較してみましょう。
たとえば浦和エリアであれば、埼京線の武蔵浦和が91.8%、中浦和が88.9%と10年間で価値が減少しているのに対し、京浜東北線の浦和は106.2%と上昇しています。駅名は違いますが、同じ距離圏で比較すると、埼京線の戸田公園が90.9%、戸田が88.9%なのに対し、京浜東北線の川口が109.9%、西川口が91.1%と差があります。
小規模物件は1割超の値下げも
エリアではなく、物件のサイズについてはどう考えればいいのでしょうか。ある業界関係者は「大規模物件より小規模物件のほうがオススメ」と語ります。その理由は、価格調整の有無です。
価格調整とは、簡単に言ってしまうと「値引き」のことです。大規模物件は販売戸数も多いため、多くの住戸で値引きをしてしまうと、デベロッパーの利益が大幅に圧縮されてしまいます。
ところが小規模物件であれば、値引きの影響額は大規模物件よりも小さく抑えられます。そのため、最近では当初の計画段階から10~15%価格を下げて販売している小規模物件が増えているといいます。
これらの条件をまとめると、東京駅にダイレクトでアクセスできる沿線の小規模物件が最もオススメといえそうです。
大手の寡占化が進む市場
気になるのは、こうした価格調整が今後も続くのではないか、という点です。東京五輪後の需要後退を見据えて、デベロッパーも物件の仕込みを減らしているという話もあります。この点について、東京カンテイの井出さんは懐疑的です。現在の首都圏のマンション市場が大手デベロッパーの寡占状態になっているから、というのがその理由です。
かつてのマンション市場では、リーマンショックなどの経済危機がきっかけとなって、中堅・中小のデベロッパーの資金繰りが苦しくなり、彼らが急激な値引きを始めたことで大手も追随せざるをえなくなり、市況が暴落するという動きが繰り返されてきました。ところが、今は大手が市場をほぼ独占しており、自主的に価格調整している状況だといいます。
つまり、大手のコントロールが効いている環境では、かつてのような急激な値崩れは想定しにくいというわけです。加えて、東京五輪の選手村として中央区晴海に建設中の物件は、大会終了後に一般向けに約5,650戸が分譲される予定となっています。「その販売を見据えると、できるだけ足元の販売価格も下げたくないという思いがデベロッパーにもあるのではないか」(井出さん)というわけです。
むろん、いくら大手主導の市場環境が維持されていたとしても、グローバルな経済環境が一変する事態が起きれば、不動産価格は大きく下落する懸念があります。また、人口減少が続く中にあっては、不動産価格が下がることはあっても大きく上昇することは期待しにくい状況です。
最終的には、そうしたリスクを背負ってでも住みたい物件が見つかるかどうかが、マンション選びでの最重要ポイントとなります。現時点で想定しうるさまざまなシナリオを考慮したうえで「買い」と判断できれば、購入を検討する余地があるのではないでしょうか。