はじめに

資産運用詐欺に利用されやすい海外SPC

さて、このSPCですが、以前、解説した「合同会社」と同じように、資産運用詐欺をする連中が用いることの多いスキームのひとつです。

以前、レセプト債(診療報酬請求債権)を用いて運用する商品が出回りました。2008年から2015年までの話です。医療法人からレセプト債を購入するための特別目的会社を設立し、そのレセプト債を担保にして発行した債券を、複数の証券会社を通じて個人などに販売したものの、実態としては個人などから集めた資金に対して十分なレセプト債を集めることができず、集めた資金の大半が「何か」に流用されてしまった事件です。

この事件では、このSPCの運営会社、ならびにこの債券の販売にあたって主導的な立場にあったアーツ証券(すでに破綻)の経営者が共謀し、個人に対してあたかも有利な運用商品であると嘘をついて資金集めをしたものの、利金や償還金の支払いに窮して事の顛末が発覚しました。典型的な詐欺事件です。

ちなみに、この事件で集められた資金は約227億円ですが、実際にレセプト債の購入に充てられた資金とSPCに残された現預金を合わせた額は約43億円しかありませんでした。乱暴にいえば、その差額である184億円が、どこかに消えてしまったのです。

調べによると、レセプト債の運用に際して必要なSPCは、国内だけでなく、英領バージン諸島やシンガポールなどの海外にも設立されていました。

仕組みが複雑で資金の流れが補足しにくい

海外SPCをうたった資産運用商品には要注意です。

海外のSPCに資産を移して運用するというスキームは、詐欺を目論む連中にとって、資金の流れをわざと複雑なものにして、日本から容易に資金の流れを補足できなくする目的があります。

たとえば前出のレセプト債を運用するために設立されたSPCが、英領バージン諸島にあるといわれても、そこでどのような運用が行われていたのかを知る術はありません。現に、この事件の破産申立書には、このSPCを通じてシンガポールやベトナムの海外法人に、集めた資金の一部が投融資されていた形跡があるということですが、その海外法人がどこで、投融資された資金が何に使われたのかは、全くの不明といわれています。

現実問題として、このようなスキームに引っ掛かり、騙されたと分かったとしても、被害者が自身で海外に設立されたとされるSPCが実在するのかどうか、そこでどのような運用が行われたのかを把握するのは非常に難しいし、幾ばくかの資産がSPC内に残されているとしても、それを取り戻すための手続きを自分の力だけで行うのは、かなりハードルが高くなります。

逆に、資産運用詐欺を目論む連中からすれば、海外SPCをスキームに用いることによって、自分たちの悪事が発覚しにくくなるだろうという目論見があるのは、いうまでもありません。

実際、過去においても「海外ヘッジファンド」「海外プライベートバンク」など、海外の投資対象や運用会社などを用いた資産運用詐欺事件がたくさんありました。日本国内で設定・運用されている「公募投資信託」なら、海外投資型であっても信用できますが、それ以外の資産運用商品で、海外SPCなど海外での運用をうたっているものについては、詐欺のリスクがあることを想定したうえで購入の是非を検討することをお勧めします。

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