はじめに

10月25日に金融庁が「金融レポート」を公表しました。一般の預金者・投資家の皆さんには馴染みの薄いものかもしれませんが、今年の金融レポートは資産運用を真剣に考える皆さんにとって“必読の書”となっています。

その理由はどこにあるのでしょうか。難解なレポートのポイントを読み解くことで、金融庁が読者に向けて込めたメッセージを探ってみましょう。


そもそも「金融レポート」って何?

金融庁では、7月から翌年の6月までを「事務年度」と呼んでおり、平成27事務年度から、その年度中に目指すべきこととそれを実現するための方針を「金融行政方針」として公表しています。これに対して、事務年度の終わりにあたって年度初めに公表した金融行政方針に対してどのような政策がとられ、どの程度実現したのかを「金融レポート」として公表しています。

先週公表された金融レポートは、去年の7月から今年の6月までの平成28事務年度を対象としており、平成27事務年度に続き2回目の金融レポートとなります。

その内容は、わが国の金融システムの現状、各金融業態(銀行、信用金庫、保険会社、証券会社など)の現状、金融行政の重点施策や運営のあり方など、専門的な、ややお堅い内容が多いです。金融庁の規制対象となる金融機関の役職員にとっては必読のレポートですが、それ以外の仕事に就かれている皆さんにとっては決して読みやすいレポートではないと思います。

それでも、今年の金融レポートには普通の会社員の皆さんも目を通しておいたほうが良い理由があります。金融庁は近年、顧客本位の路線に大きく舵を切っており、今後の投資や資産運用のヒントになることがたくさん書かれているからです。

日本の投資家が儲からないワケ

今年のレポートは、これまでの金融庁のスタンスとは大きく異なる内容となっています。それを最も端的に表しているのが「顧客本位」という言葉です。

レポートの随所で、金融機関や金融サービスに対して顧客本位を徹底すべきという考え方が強く反映されています。検索してみたところ、142ページのレポート全体で、なんと176回も「顧客」という言葉が使われています。

実に1ページにつき1.2回以上使われている計算になります。それだけ金融機関にとっての顧客、つまり一般の預金者・投資家の皆さんにとって必読の内容が含まれているのです。

特にそれが強く出ているのが「Ⅱ-1. 顧客本位の業務運営の確立・定着等を通じた家計の安定的な資産形成」という章になります。この章は28ページにもわたり、レポート全体で最も長い章になっています。

ここではまず、日米の家計金融資産の残高を比較し、この20年で米国では3倍に拡大しているのに対して、日本ではその伸びが1.5倍に留まっていることを指摘しています(下左図)。また、その違いは資金流入額から生じているのではなく、運用リターンの違いに大きく起因しているという分析も紹介しています(下右図)。

こうした日米の運用リターンの違いを説明する中で、米国の運用手法の特徴について、税制優遇措置により401k(企業型確定拠出年金)や IRA(個人向け確定拠出年金)が普及し、国内外の株式や先進国債券に広く分散して投資する投資信託を中心に長期の積み立て投資が広く利用されてきたこと、と説明しています。

一方で日本の資産運用の特徴としては、必ずしもパフォーマンスが良いわけではないテーマ型投資信託やアクティブ運用投資信託などの商品に短期的に投資する割合が高くなっている、としています。

さらに、人気の高い毎月分配型投資信託は運用効率が低下するケースが多い、販売手数料が高い、回転売買が多い、グループ内販売会社との利益相反、といった課題も指摘しています。ご自分の投資対象を思い浮かべて苦笑いをしている方もいらっしゃるのではないでしょうか。

金融庁がレポートに込めた期待

こうした課題に対応するため、金融庁では、2014年1月に「NISA(少額投資非課税制度)」を導入し、毎年の投資上限額(120 万円)の範囲内で行われる投資について、その配当、譲渡益などを5年間非課税としています。

さらに、少額からの長期・積み立て・分散投資を後押ししていくため、2018 年1月から「つみたてNISA」を開始することも公表されています。これ は、年間 40 万円を上限として行う積み立て投資について、配当や譲渡所得などを 20 年間の長期にわたって非課税とする制度です。

こうした長期的な積み立て戦略については「ドル・コスト平均法」と呼ばれる理論に基づいており、いわゆる高値づかみなどのリスクを軽減し、これらを長期で保有することにより元本割れの可能性を低減させることが可能となると考えられています。

金融庁では、この「つみたてNISA」を1つの契機として、「生産者側」の論理ではなく「消費者側」の論理によって顧客本位の目線に立った投資信託の組成・販売に変わっていく必要がある、としています。

今後はこのレポートに沿って、販売手数料が基本的に無料で、信託報酬も低く抑えられた、顧客本位の投資信託が増えていくものと考えられます。預金者・投資家の皆さんは、この金融レポートを参考に、長期・積み立て・分散投資を安く手軽に活用し、「賢い顧客」として安定的な資産形成を図っていくことが期待されているのです。

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